苦戦する国内高配当株投信~なぜリーマン・ショック時の再現にならなかったか~

2020年03月19日

(前山 裕亮) 株式

1――リーマン・ショック時の再現ならず

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、投資家のリスク回避姿勢が強まり、TOPIX(東証株価指数)が年初からの下落率が30%に迫るなど、国内株式は大きく下落している。そのような市場環境の中で、3月末の決算期が近づいていることもあり確実に得ることができる「配当」に注目する投資家も多いと思われる。

安定して高い配当の獲得を目指して銘柄選択を行っているのが、高配当株投信である。国内高配当株式投信は、リーマン・ショック時に市場平均を上回るパフォーマンスを上げていたことが知られている。実際に足元、純資産総額が大きい7本(偶然、すべて2008年以前に設定されていた)の国内高配当株投信(赤線)の2008年からの平均累積収益率をみると、大きく下落こそしているが、信託報酬などのコスト控除後でも、TOPIX(青線)よりも下落幅は5%程度ほど小さかった【図表1】。
しかし、同様に7本の国内高配当株投信(赤線)の2020年初から足元までの平均累積収益率をみると、TOPIX(青線)以上に下落しており、厳しい状況になっている【図表2】。信託報酬などでTOPIXに対してコスト負けしていることもあると思われるが、現時点ではリーマン・ショック時のような市場平均を上回る展開になっていないことが分かる。

2――業種の偏りがマイナスに寄与

2――業種の偏りがマイナスに寄与

株式市場で配当自体は注目されている項目の一つだと思われるが、高配当株投信のパフォーマンスが優れないのは主に業種によるものと考えられる。

ここで、国内高配当株投信の業種別の組入比率をみる【図表3】。なお、昨年10月もしくは今年1月に公表された直近の運用報告書の値である。足元の組入状況を表した値ではないが、組入れている銘柄の傾向自体は足元でも大きく変わらないと思われる。また、【図表3】はTOPIXの同様の組入比率で除した値となっており、プラスであるならば市場以上に多くその業種の銘柄を多く保有しており、積極的に投資していることを意味する。
国内高配当株投信に組み入れられている銘柄は、足元で特に大きく下落している業種(赤線囲い)の銘柄が多いことが分かる【図表4】。そのため高配当以上に業種(その業種の業績に対する先行きの不透明感)が嫌気され、国内高配当株投信のパフォーマンスが優れなかったのかもしれない。

3――高配当株の属性が変わった可能性

3――高配当株の属性が変わった可能性

また、足元の国内高配当株投信では、足元でも相対的に株価が底堅く推移している「電気・ガス業」、「医薬品」(緑線囲い)の対TOPIX超過組入比率がややマイナスとなっており、銘柄を積極的に投資していなかった様子である。

「電気・ガス業」と「医薬品」の銘柄は、業績の安定度が高く下落相場に強い(ディフェンシブ)銘柄である。それに加えて、以前は代表的な高配当株であった。実際に配当利回りの推移をみると、「電気・ガス業」と「医薬品」の配当利回りは、2011年以前はおおむねTOPIX(全体)よりも高水準であった【図表5】。リーマン・ショック時には、国内高配当株投信に「電気・ガス業」と「医薬品」の銘柄が組み込まれ、国内高配当株投信の高パフォーマンスに貢献したものと思われる。それが「電気・ガス業」は原発事故問題があったこともあり一時、大きく低下し、2017年以降は2業種とも配当利回りがほぼTOPIX並みになっている。そのため、足元では国内高配当株投信にあまり組入られていなかったと推察される。
このように国内高配当株投信のパフォーマンスがリーマン・ショック時と異なり足元で優れないのは、組入れている高配当銘柄の業種をはじめとする属性がリーマン・ショック時から実は変化したためではないだろうか。もしそうであるならば、足元のパフォーマンスはたまたまではなく、今後も続く可能性があり注意が必要といえるだろう。
 
 

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮(まえやま ゆうすけ)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴

【職歴】
2008年 大和総研入社
2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
2022年7月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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