都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)の施行(2018年9月)により、それまで実質的に困難であった生産緑地の貸借が可能になった。以降、新規就農者、民間企業、NPO法人などがこの法律を活用して、生産緑地を貸借する事例が徐々に聞こえてくるようになっている
1。
生産緑地とは、市街化区域内農地のうち、生産緑地法に基づき要件が規定され、都市計画で指定された地区の農地である。30年間営農以外の行為が制限される代わりに、固定資産税の宅地並み課税や相続税納税猶予制度が適用される。
以前のレポート2でも指摘したとおり、そもそも都市農地貸借法制定の前に、都市農業振興基本計画
3の中で農地の貸借を通じて、新たな担い手となる主体を想定しておいる。同レポートでは、この記載と認定事業計画に基づく貸付
4の認定要件に照らして、農業法人が6次産業化や研究開発の目的で都市農地貸借法を活用するであろうと想定した。
実際のところ農業法人の需要はどの程度あるだろうか?ニッセイ基礎研究所では、2018年に、「公益社団法人 日本農業法人協会」(以下、協会)
5の協力を得て、同協会会員法人を対象にアンケート調査を実施した。ここではその結果を紹介し、生産緑地を活用した都市農業への農業法人参入の可能性を考察したい。
調査結果を紹介する前に、農業法人とは何かを確認しよう。農林水産省の解説では、農業法人とは、農業を営む法人の総称とある
6。つまり、法人の形態を問わず、水稲、園芸、畜産などの農業を営んでいる法人を農業法人と呼称していることになる。
その上で、農業法人は、一般法人と「農事組合法人」とに分けられる。「農事組合法人」とは、農業協同組合法(農協法)に基づき、組合員の農業生産についての協業を図ることによりその共同の利益を増進することを目的に設立される法人である
7。組合員とは原則として農家であることから、農家同士が協業して農業生産を行うための法人になる。
農林水産省の調べによると、農事組合法人は、2018年時点で、9,416あり
8、農業を営む一般法人は、3,286ある。一般法人の内、株式会社が約64%、NPO法人等が約24%、特例有限会社が約12%となっている。
1 例えば、メディアの報道では次のようなものがある。「都市農地に新規就農者 新法後押し、借りやすく付加価値⾼い⻘果を供給2018/10/16 ⽇本経済新聞」、「TOKAIホールディングス---菜園サポート付き都市農園サービス「みんなのはたけ」を開園2018/11/21 FISCO」、「⺠間企業初、農地を借りて農園運営 アグリメディア、新法施⾏で開設2018.12.3 SankeiBiz」、「はたけんぼ農園拡大の見込み2019.1.31 NPO法人くにたち農園の会理事長 株式会社農天気代表取締役 小野淳氏FB」
2 「生産緑地を借りるのは誰?都市農地の貸借円滑化法施行の効果と課題(その2)」2019-02-27
3 都市農業振興基本法に基づき、都市農業の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために政府が定める計画。2016年閣議決定。都市農地貸借法も、計画に基づき整備された。
4 都市農地貸借法による2つの生産緑地貸借スキームのうちの一つ。生産緑地を借りて自ら耕作事業を行おうとする場合に用いるもので、賃借人が事業計画を作成し、当該市区町村がそれを認定することで貸借が成立する。認定には6つの要件をすべて満たすことが求められる。詳しくは(2)を参照。
5 東京都千代田区
6 農林水産省ウェブサイト https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/seido_houzin.html
7 農業協同組合法第72条の4
8 「平成30年度農業協同組合等現在数統計」農林水産省 2018年3月末時点。
2――調査結果