3月3日の研究員の眼「
マスク高額転売をどう考えるか-法的な規制は可能なのか」
1で、参院質問主意書に対して、政府はマスクの転売の価格規制を行わない旨を回答したことをお伝えした。その後、事態は変化し、3月15日より、政府は衛生マスクについて、購入金額を超える転売を規制することとした。改正政令が3月11日に公布されたので、本規制について解説を加えたい。
まず、適用される法律は質問主意書でも取り上げられたものと同じく、昭和48年の物価高騰時に制定された国民生活安定緊急措置法(以下、単に法という)である。そして、適用される条文は、主務大臣が標準価格を定め、標準価格以下での販売を指示できるとする第6条、第7条ではなく、物資の販売制限または禁止を定める第26条となった(政令第1条、第2条)。
第26条を適用するには、以下の2点が問題となると思われる。まず、(1)規制対象とすべきなのは、ネットなどでの転売行為であるが、小売店やネット正規事業者等の販売行為とどう切り分けるのかである。小売店の店頭等での販売も卸売業者から見れば転売だからである。次に、(2)ネットなどでの転売行為だけが規制できるとして、まったく販売を禁止してしまうのか、一部認めるとしてどのような行為であれば認めるのか、である。
まず、(1)であるが、規制される行為が「不特定の相手方に売り渡す者から購入をした者が」「不特定または多数の者に対して売買契約の締結を申込み(後略)」譲渡するものとされた。言い換えると小売業者は、卸売業者という「特定の相手方に売り渡す者から」購入したのであって、本規制の適用対象にはならないことになる。ただ、そうなると、一部報道されていたように、コンビニなどの小売店自身が高額販売をする場合には、本規制は適用されないことになる。これは以前の研究員の眼で書いた通り、信用問題ということになろう。また、小売店で購入した衛生マスクを「特定かつ少数の」友人・知人に限って譲り渡すことは規制対象外である
2。
次に、(2)であるが、禁止されるのは「購入価格を超える価格」で譲渡する行為に限定された。このように定めることにより、現在、在庫として抱えている者が購入価格以下で転売することも期待できる。細かいことを言えば、消費税や購入時にかかった送料等は購入価格に含まれるかが議論となりうる。しかし、本規制は刑事罰の付された禁止規定であり、「購入価格を超える」という点は立件する検察側が立証すべき事実である。そのため、実務的には、立件されるのは明確な高価販売に限定されることになるだろう
3。オークションサイトなどでは多くの場合、1円スタートで価格を競り上げていくこととなると思われる。しかし、仮に競り上がった結果であったとしても、購入価格を超える価格での譲渡は刑事罰で禁止されるので、注意が必要である。
本規制の対象となるのは「衛生マスク」であり、家庭用マスクや医療用マスクなどが該当するが、美容用のフェイスマスクなどは対象外である。
規制に違反して衛生マスクを転売した者には懲役1年以下、または100万円以下の罰金が科せられる(懲役・罰金の併科もある。政令第7条)。通常、刑事罰は法律本体で定められるが、法37条は、刑事罰を政令で決められることとしている点に特色がある。チケット不正転売防止法違反にも同じ罰則が定められているので、刑事罰の水準として妥当なところと考えられる。
刑事罰は3月15日以降に締結された売買契約について適用され(政令附則1,2)、遡及適用はされない。しかし、だからといって14日までに高額転売をしてしまうといったことが起こらないことを願いたい。
本規制がいつまで適用されるかの期限は定められていない。ただ、法26条は「物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において、生活関連物資等の供給が著しく不足し、かつ、その需給の均衡を回復することが相当の期間極めて困難であることにより、国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じ又は生ずるおそれがあると認められる」ときに限って適用されうるので、衛生マスク不足が恒常的に解消したと判断される場合には本規制を削除することが必要となるだろう。