土地使用権の自動延長から、家には住み続けられることになったが、そもそも住宅(中国都市部の場合、鉄筋コンクリート造マンションが一般的)は70年間も持つのだろうか。欧州では百年を超える建物が数多く存在し、日本でも長期優良住宅の供給が推進されてきた。しかし、中国では修繕計画に基づく大規模修繕どころか、日常の設備点検なども疎かなため、問題となるマンションが多い。
それもそのはず、中国では土地が収用されて、取り壊し対象になるほうが得だからである。「土地管理法」では、「公共利益のため、国は法律に基づき土地を収用(
征收・征用)することができ、その代わりに(建物およびその他の定着物に対し)補償する必要がある」と明記されている。補償基準は「国有土地建物の収用と補償に関する条例」(「
国有土地上房屋征收与补偿条例」)(2011)
5に基づき各地方政府により定められているが、一夜にして億万長者になるケースがめずらしくなく、そのため敢えて取り壊し対象になりそうな住宅を購入する投資家が多い。
しかし、今後は、こうしたことは長続きしないだろう。1つの理由は国に補償金を支払う余裕がなくなるためである。例えば30戸のアパートを、300戸のタワーマンションに高度利用のために建替える場合は、元住民に高額な補償金を支払うとしてもメリットがある。一方、中国では、地方都市も含め各地域に高層マンションが林立しているが、将来これらのマンションを建替える場合、どれだけの補償金が必要になるかは誰も見通せていない。
もう1つの理由は、建替えても価値が高くならないことである。高額な補償金が成立するのは、その建物が都心部にあり、建替え需要があることによるが、中国では各都市に「高新区」と名付けたハイテク産業開発区
6が設立され、都心部が高新区に移転しつつある。このため旧中心市街地では人口が減少し住宅の需要が低下する傾向があり、敢えて高額な補償金を支払い、建替えを行うインセンティブは乏しくなっている。
中国の不動産市場はまだ30年しか経っていない。このため法整備が十分でない点が多い。土地使用権の更新料の代わりに、固定資産税(
房产税)を徴収することも数年前から議論されており、土地使用による費用負担の程度も流動的である。
次回は、土地使用権譲渡金や使用年限の更新料の算出根拠となる「基準地価」について報告する。
5 当条例は「都市部住宅建替え管理条例」(「城市房屋拆迁管理条例」)(1991)の代替案となるため、補償制度は1991年から施行されていた。
6 高新区は1988年から、中国国務院が進めてきた開発促進事業の一環であり、全国計168都市に普及している。