(1) リスクフリー・レートの補外(Extrapolation of the risk-free interest rates:UFRの使用)
技術的準備金を算出する際に使用するリスクフリー・レートについて、市場データ等が得られない超長期の値については、補外が必要となる。この補外の手法として、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)を使用する。具体的には、(スポットレートではなく)フォワードレートが終局的に(外部から定められた)一定の水準に向けて収束するとの前提にたって、超長期の金利水準を決定する手法であり、この時に設定される終局のフォワードレート水準がUFRとなる。
(2) マッチング調整(Matching Adjustment:MA、以下では、この短縮表現を使用、以下同様)
保険会社の資産と負債がマッチングしており、区分管理されている等の一定の条件を満たしている場合には、資産のスプレッドが変化するリスクに晒されていない。資産スプレッドの変動が会社の自己資本に影響を与えるのを避けるために、監督当局の承認を得て、資産スプレッドの変動に応じて、リスクフリー・レートの期間構造を調整することが認められる。
(3) ボラティリティ調整(Volatility Adjustment:VA)
債券市場の流動性低下や信用スプレッドの異常な拡大等を理由に債券相場が急落する等市場環境が混乱して、市場が適正な価格を提供しなくなったような場合に、保険会社によるプロシクリカルな投資行動を防止する観点から、債券スプレッドのボラティリティの影響を緩和するために、監督当局の承認を得て、リスクフリー・レートの期間構造を調整することが認められる。
具体的には、資産の参照ポートフォリオから得られる可能性のある金利と調整のないリスクフリー・レートとの間のリスク修正スプレッドの一定割合(65%)に基づいて、利率の上乗せを行うことができる。
(4) リスクフリー・レートの移行措置(Transitional on the Risk- Free Rate:TRFR)
ソルベンシーIIの開始後16年間は、監督当局の承認を得て、適用されるリスクフリー・レートに対して、ソルベンシーIの割引率とリスクフリー・レートとの差異に基づいて、ソルベンシーIIの開始時はその差の100%であるが、16年間の移行期間にわたって直線的にゼロに縮小していく「移行調整」が認められる。ただし、ソルベンシーIIの開始前に締結された契約に対してのみ適用される。
(5) 技術的準備金に関する移行措置(Transitional on the Technical Provision:TTP)
ソルベンシーIIの開始後16年間は、監督当局の承認を得て、ソルベンシーIの技術的準備金とソルベンシーIIの技術的準備金との差異に基づいて、ソルベンシーIIの開始時はその差の100%であるが、16年間の移行期間にわたって、直線的にゼロに縮小していく「移行控除」が認められる。ただし、ソルベンシーIIの開始前に締結された契約に対してのみ適用される。
(6) ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長(Extension of the Recovery Period:ERP)
会社がSCRをカバーしていない場合、NSAは、会社に対して、SCRに準拠していないことを確認してから6ヶ月以内に、SCRをカバーする適格自己資本の水準を再設定又はSCRへの遵守を確実にすべくリスクプロファイルを縮小するために必要な措置を講ずる、ように要求しなければならない。NSAは、必要に応じて、その期間を3か月延長することができる。さらに、ソルベンシーII指令第138条第4項は、監督当局が特定の状況下で、SCR要件の遵守の再設定のための回復期間を、最大限 7年間までさらに延長することができる、と規定している。
この権限は、市場又は影響を受ける事業部門の重要なシェアを占める保険及び再保険事業に影響を及ぼす、次に掲げる「例外的な不利な状況」が発生した場合に適用される。
・予期せぬ鋭く急激な金融市場の下落
・持続する低金利環境
・影響の大きなカタストロフィックな事象
このERPは、NSAsの要請を受けて、EIOPAが例外的な不利な状況の存在を宣言した後にのみ付与することができる。ソルベンシーII委任規則第288条には、EIOPAが例外的な不利な状況の存在を評価する際に考慮すべきいくつかの要因と基準が記載されている。なお、EIOPAは、例外的な不利な状況が存在するかどうかを判断する前に、ESRB(European Systemic Risk Board:欧州システミックリスク理事会)に相談することができる。
(7) 株式リスクチャージの対称調整メカニズム(Symmetric Adjustment Mechanism to the Equity Risk Charge/Equity Dampener:ED又はSA)
金融システムの過度の潜在的な景気循環効果を緩和し、保険及び再保険会社が、金融市場における維持されない不利な動きの結果として、追加的な資本を増やしたり、投資を売却したりすることを不当に強要される状況を回避するために、SCRの標準式の市場リスク・モジュールには、株価水準の変化に関する対称調整メカニズムが含まれている。株式市場が上昇した場合、対称調整はプラス(資本要件がより高い)となり、株式市場が下落した場合、マイナス(資本要件がより低い)となる。
(8) デュレーションベースの株式リスクサブモジュール(Duration-Based Equity Risk Sub-Module: DBER)
SCRの標準式には、株式市場価格の水準の変動に起因するリスクを捉える株式リスクサブモジュールが含まれる。株式リスクサブモジュールは、株式の種類に応じて、株式市場価格が39%又は49%下落することを想定したリスクシナリオに基づいている。その株式リスクサブモジュールではなく、株式市場価格の下落を22%と想定するリスクシナリオに基づいて、一定の株式投資に関してデュレーションベースの株式リスクサブモジュールを使用することができる。 デュレーションベースの株式リスクサブモジュールは、一定の職業上の退職所得支給や退職給付を提供し、特に、会社の負債の平均デュレーションが平均12年を超え、 会社が少なくとも12年間は株式投資を保有することができる、というさらなる要件を満たす生命保険会社によってのみ適用することができる。
4―LTG措置及び株式リスク措置の適用要件