2020年は域内の政治も波乱含みだが、それぞれ問題が異なるために、経済活動や他国への潜在的な影響の広がりなどにはばらつきがある。
経済活動への直接的な影響が心配されるのはフランスだ。今月5日、政府の年金制度改革に反対する無期限のストライキが始まった。18年11月に始まった「黄色いベスト運動」による下押し圧力は、きっかけとなった燃料税引き上げの撤回と所得対策、さらに国民大討論会の実施などで運動が沈静化するとともに緩和した。今回のストライキの原因である年金制度改革は42ある一本化する改革によって、国鉄職員や公務員などの既得権を脅かされるとの懸念が抵抗が強い。ストライキが長期化すれば、サービス業主体で堅調に推移してきたユーロ圏第2の経済も失速し、ユーロ圏の景気後退リスクが現実味を帯びてくる。
11月にやり直し総選挙が行われたスペインも政局の混迷が続いているが、経済への打撃や域内への影響は限定的だろう。2018年6月、国民党(PP)のラホイ政権への内閣不信任案が可決、サンチェス首相率いる7年振りの社会労働党(PSOE)政権が誕生したが、19年度予算案の否決を受けて、議会を解散、19年4月に総選挙が実施、PSOEが第1党となったものの政権を樹立できず、11月にやり直しの選挙が実施された。やり直し選挙でも、PSOEの過半数割れは変わらず、急進左派ポデモスと連立政権を樹立することで基本合意したが、PSOEとポデモスの二党では過半数には届かず、政権樹立は越年の見通しとなっている。スペインでは、政権が樹立できず、予算案が可決できない場合には、自働的に前年度の予算案が繰り越される仕組みとなっている。19年に続いて、20年も同様の事態となった場合も、経済活動や信認に大きな影響はないと見られるが、課題の解決は遅れる。
イタリアのEU懐疑主義への懸念は一旦後退したものの、火種は燻り続けている。19年8月、サルヴィー二副首相(当時)率いる「同盟」の連立離脱で、5つ星運動と民主党など中道左派の連立による第2次コンテ政権が成立した。親EU路線をとり、予算でもEUとの対決姿勢を弱めた第2次コンテ政権を市場は歓迎しているが、連立与党内の足並みの乱れは目立ち、世論調査では、「同盟」が今も支持率1位を保つ。解散総選挙となれば、サルヴィー二首相率いる中道右派の連立政権が誕生し、再びEUに懐疑的なスタンスに転じるリスクがある。
ドイツの政治も州議会選挙での二大政党の退潮が続くなど、混迷が続いているが、20年度予算を閣議決定しており、経済にマイナスの影響を与えるリスクは小さい。財政出動という面ではむしろ今よりも積極的な取り組みに転じるきっかけとなるかもしれない。ドイツの連邦議会の任期は21年10月までだが、メルケル首相の与党・キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と大連立を組むドイツ社会民主党(SPD)の離脱懸念が燻る。SPDは11月の党員投票で連立懐疑派の西部ノルトライン・ウェストファーレン州政府元財務相のワルターボーヤンス氏とエスケン連邦議会議員を党首に選出した。SPDは、即時の連立離脱を回避し、気候変動対策の強化やインフラ投資拡大、最低賃金の引き上げなどを政策に反映する方針を確認した。SPDの要求をCDU・CSUが受け入れれば、連立の崩壊はとりあえず回避できる。ポスト・メルケル体制が固まっていないCDU・CSUも大連立政権の早期崩壊回避に動きそうだ。ドイツの政党支持率に関する世論調査では緑の党がCDU・CSUに次いで僅差に2位につけている。SPDの政策をより反映した大連立維持の場合も、解散・総選挙で緑の党が政権入りした場合も、気候変動対策へのより積極的な取り組みなどが見込まれる。
ドイツは20年下期のEU議長国(上期はクロアチア)である。ドイツの政局の混迷がドイツ経済に与える影響は限定的だとしても、ユーロ圏改革やEUの政策の推進などへの貢献が期待される局面だけに、EUやユーロ圏に及ぼす影響はやはり大きい。
EUを離脱する英国の減速、単一市場の縮小はEU、ユーロ圏にとってもマイナス