分析において、独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(図表1)。なお、変数は強制投入とする。重回帰分析の結果、重決定係数は0.285であり、1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す(図表2)。図表2より、管理職への興味について5%水準で有意な変数のうち、「業績を評価してもらえるのなら出世したい」や「家族との時間を多少犠牲にせざるを得なくても、仕事で成功したい」といったキャリア重視志向の高さは何よりも正の影響を与える(図表2)。このほか、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「女性上司のもとで働くことに抵抗はない」といった女性の権利重視志向の高さや子どもがいること、年収の高さは正の影響を、「経済的な問題などがなければ、あまり働きたくない」や「仕事よりもむしろ、仕事以外のことに生きがいを感じる」といった仕事億劫・割り切り志向の高さや年齢の高さ、「恋愛や結婚は人生で、さほど重要ではない」や「結婚で得られるメリットは少ないと思う」といった恋愛・結婚不要志向の高さは負の影響を与える。
つまり、キャリア形成に積極的な考え方は何よりも管理職への興味を高めており、働くことに消極的な考え方は管理職への興味を低減する。なお、恋愛や家族形成に積極的でないことも管理職への興味を低減するが、例えば、何事においても消極的な考え方をする傾向があると、管理職志向も弱いということなのかもしれない
12。また、年齢が低いほど管理職への興味は高まるが、若いほど女性の社会進出が進んでいることに加えて、前稿でも触れたが50代などはキャリア形成の後半に差し掛かり、現状に満足しているために興味が低いこともあるのだろう。
なお、子どもがいることは管理職への興味を高める。前稿にて、子どものいる女性で、管理職への興味がない場合、その理由には仕事と家庭の両立の負担感をあげる割合が高かったため
13、子どもがいることは管理職への興味を弱める可能性もあるが(両立の負担感を懸念し管理職になることを躊躇する)、重回帰分析の結果では、子どものいる女性の方が子どものいない女性と比べて管理職への興味が高い傾向がある。この点については年代別の結果もあわせて考察したい。
前述の通り、短大卒では管理職への興味が「ない」割合が高いが、重回帰分析の結果では、短大卒であることは負の影響を与える傾向はあるものの、有意な値ではない。最終学歴というよりも、教育環境をはじめ家庭環境などの様々な要因をあわせて形成される価値観等の影響の方が大きいようだ。
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。本稿の分析対象は正規雇用者で非管理職、最終学歴がその他以外(n=1,118)。
3 ない=0、どちらともいえない=1、ある=2
4 中学卒=1、高校卒=2、高等専門学校卒=3、専門学校卒=4、短期大学卒=5、大学卒=6、大学院卒=7、その他=8のうち、8以外が分析対象。便宜上、順序尺度に見立てているが、例えば、専門性の高さなどの軸で見ればこの通りではない。
5 収入はない=1、150万円未満=2、150~300万円未満=3、300~500万円未満=4、500~700万円未満=5、700~1,000万円未満=6、1,000万円以上=7
6 専業主婦コース(結婚・退職専業主婦コースをはじめ一連の専業主婦コース)=0、再就職コース=1、両立コース=2、その他=3のうち、3以外が分析対象。
7 未婚=1、既婚=2
8 子どもなし=1、子どもあり=2
9 体力がない方だ=1、どちらかと言えば体力がない方だ=2、どちらともいえない=3、どちらかと言えば体力がある方だ=4、体力がある方だ=5
10 詳細は、久我尚子「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による違いに注目して」、一般社団法人社会文化研究センター調査補助事業報告書(平成30年8月)及び付表を参照。働き方についての価値観は女性の権利重視志向や仕事億劫・割り切り志向、キャリア重視志向、やりがい重視志向、安定・保守志向、恋愛・結婚についての価値観は伝統的志向や条件重視志向、恋愛・結婚不要志向、リベラル志向、家庭生活重視志向のそれぞれ5つから成る。
11 1=短期大学卒以外、2=短期大学卒
12 この点については、Big5などの性格尺度を用いた分析を検討中である。
13 子どものいる女性で管理職に興味がない場合、その理由として「現在でも家事や育児などの負担が大きいため、これ以上は体力的に/精神的に無理だから」や「家庭やプライベートとの両立が難しくなるから」の選択割合が全体と比べて高い傾向があった。
3――年齢別に見た管理職への興味に影響を与える要因