事業から得られる潤沢なキャッシュフローを積極的に研究開発や買収に投下し、利用者(顧客)目線を徹底した洗練された製品やサービスを作り上げ、多くの人を魅了してきた。同時に、ありとあらゆる利用者のデータ(ウェブサイトの閲覧履歴、商品の購入履歴等)をかき集め、利用者の興味や関心にあったコンテンツやお勧め商品を表示する。利用者にとっては、ちょっとした無駄やストレスが無くなり、快適さや利便性が増す一方で、デジタル・プラットフォーマーにとっては、広告価値が高まり、お勧め商品が次々と売れることで収益性が増していく。当初は、積極的な先行投資で赤字が続き、収益化を疑問視する向きもあった。結果的には、デジタル技術とデータ活用によって、高度に洗練され、収益性の高いビジネスモデルを作り上げるに至っている。
こうして圧倒的な存在となったデジタル・プラットフォーマーに対し、懸念の声が広がっている。
1つは個人情報に対する懸念だ。上述の通り、デジタル・プラットフォーマーにはありとあらゆるデータが集まる。SNSであれば、登録したユーザー情報だけでなく、投稿したコメントや写真の内容から、氏名、年齢、本人や家族の顔写真、交友関係、趣味や信条、職業等の情報が取得できる。明確な記載のある投稿がなくても、その内容を組み合わせることで住所や年収等も推定出来よう。
Facebookの情報流出事件も記憶に新しい。2018年春、Facebookの利用者約8,700万人分の個人情報が、英国のコンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカに不正に流用されたことが発表された。同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が米議会の公聴会で追及を受けたことも大きな話題となった。そして、2018年秋には、ハッカーからサイバー攻撃を受け約2,900万人の個人情報が流出したことも明らかになった。多くの個人情報が集まる巨大デジタル・プラットフォーマーは、悪意あるサイバー攻撃等の格好のターゲットになるということを、改めて世界中が認識した。
また、自分に関する情報がどのように使われているのか良く分からず不安だという声もある。転職について考えている時、何気なくスマホでインターネットを見ていたら、転職エージェントの広告ばかり出てきて何だか気持ちが悪い、ということもあるだろう。彼(彼女)が見たのは、過去のウェブサイトの閲覧履歴等から、興味・関心を持つであろうと推察される広告を配信する「行動ターゲティング広告」だ。広告主は、広告の費用対効果を最大化したい。若い女性向けの化粧品の広告ならば、シニア層の男性に流してもあまり意味がない。閲覧履歴等から若い女性だと推察される利用者に広告を表示した方が効果は高い。インターネットやスマホの普及を背景に、インターネット広告の需要が伸びている中、広告主にとって行動ターゲティング広告は非常に魅力的である。具体的な情報の登録や投稿が行われるFacebookや、具体的に興味・関心を持つモノが検索ボックスに入力されるGoogleならば、なおさら高い精度でターゲティングが出来る。インターネット広告に関する技術(アドテクノロジー)は大きく進歩してきた。データとテクノロジーを駆使した広告ビジネスが高度化され、ターゲティングの精度が上がっていく中で、利用者が監視されているような気持ち悪さが生じている。
そして、プラットフォームに依存せざるを得ない弱い立場の参加者が、その運営者(プラットフォーマー)から不公正な取引を強いられる懸念もある。
経済産業省が2018年10月に実施した、プラットフォームを利用する事業者向けアンケートでは、新規顧客の獲得等でそのメリットを評価する一方で、契約や取引慣行に不満があるいう回答も多く見られた(図表3)。また、プラットフォーマーとの間の秘密保持契約等を理由に、詳細な情報提供を断るケースも見られ、十分にその問題点を把握できない場面もあったとされている。また、公正取引委員会が2018年1月から11月にかけて実施した、消費者向けeコマースの取引実態に関する調査の報告書においても、利用料や決済条件、出店審査基準、顧客情報の利用条件等に関して、オンラインモール出店者の不満があったと言及されている。優越的地位にあるオンラインモール運営者(プラットフォーマー)が利用料や決済方法を不当に変更する場合等は、独占禁止法上問題となる可能性があるとされている。
プラットフォームを利用する中小企業等の事業者だけでなく、利用者である消費者も「不公正な扱い」を強いられることが懸念されている。サービス利用と引き換えにデータ提供が強要されたり、提供したデータの使われ方次第ではプライバシーの侵害や信用上の不利を被ることが起こり得る。