5-社会保険料をいかに適正に徴収するか-保険料の徴収機能を税務局に一本化 このように、今後の財政状況に懸念が残る中で、社会保障関係費は急増し、財政補填も増加している。よって、社会保険料を適正に徴収するべく、2019年1月から新たな取組みが始まった。それは、社会保険料の徴収を従来の社会保障局から税務局へ一本化するというものである。これまで、収入に係る所得税の徴収は税務局、社会保険料の徴収は多くの地域で社会保障局と別々で行っていた。この隙をついて、一部の企業では実際の給与より引き下げた基準で社会保険料を算出し、社会保障局に納付していた
8。社会保険料を納付するにあたり、多くの地域ではその基準を、地域の前年の平均給与の60%を下限、300%を上限としている。企業によってはこの下限を基準に算出していた。
こ適正に徴収できていない保険料分については、最終的に財政から補填されることになる。特に、上述の財政補填が最も多くかかっている都市の会社員を対象とした年金制度については、保険料の納付は本人給与に基くものの、給付は地域の平均賃金に基いて算出されるため、過少な基準に基いて保険料の納付がされた場合、負担と給付のバランスが崩れやすい状態にあった。今後、適正に保険料が徴収されるようになれば、財政負担の軽減も期待できる。
税務局への一本化が進むと、社会保険を算出する上での基準額と個人所得税の税引き前の収入の照合が容易となる。適正な基準に基いて納付していなかった企業にとっては、その差額分が新たにコストとして圧し掛かることになる。
本来、社会保険料は適正に支払うべきではあるが、そもそも負担割合が高く、企業側はこれまで人件費のコスト高に苦しめられてきた。税務局で徴収されることになると、状況によっては過去のデータに基いて追納の可能性も考えられるが、国が企業側に配慮し、過去分への取り締まりを原則として禁止している。加えて、企業によっては社会保障のコストが大幅に増加し、経営に大きな影響が出てしまうことも考えられるため、当局は社会保険料率の引き下げも検討している。
ただし、これと同時に、今後、社会保険に関する違反行為があった場合、その懲戒処分を強化していく取組みも発表されている。中国では、国民や企業による法令順守、社会秩序の向上を目指す「社会信用システム」の構築を目指しており、社会保険の納付等について違反行為のあった個人や企業は、国が運営する信用システムのウェブサイト上で名前や情報が公表される
9。また、その情状が重大な場合は、関係責任者が飛行機、高速鉄道などへの乗車ができないなどの制裁を受けることになる。
8 社会保険料の料率は、個人負担割合:医療(2%)、年金(8%)、雇用主負担:医療(8%)、年金(20%)、労災・失業・生育(それぞれを1%)であるが、地域で異なる。
9 2018年11月、中国国家発展改革委員会など28の中央省庁が、社会保険に関する違反行為があった企業とその関係者(本人など)に対する懲戒処分で協力していく内容の覚書を発表。懲戒処分の対象は、以下の9つのケースが想定されている。(1)規定に従って社会保険に加入しない場合(2)社会保険料を納付するための基数を正しく申告しない場合、(3)社会保険料を納付しない場合、(4)社会保険料や基金を隠避、移転、占用、横領したり、違法に投資を行う場合、(5)証明資料を偽造して社会保険に加入し、給付を不当に受けた場合、(6)社会保険に関する個人情報を不正に入手し、転売した場合、(7)社会保険サービス機関がサービス協定や規定に違反した場合、(8)行政の調査や税務局の検査に協力しない場合(9)その他法律や規定に違反した場合。なお、担当する当局ごとに計32の懲戒処分を定めている。(出所)「関于対社会保険領域厳重失信企業及其関係人員実施聨合懲戒的合作備忘録」
6-日本と中国の高齢化における時間差はおよそ30年、中国が進むべき道は?