「経済的理由で、必要な子どもの受療を躊躇しないように、また、子育て世帯を支援するために、子どもの医療費を助成する」という主旨に反対する意見は少ない。
しかし、限りある財源と医療資源を適切に利用するためには、目的と照らし合わせて、この助成制度の対象と程度、および助成による小児科医の負担や医療費の増加が適切なものかが議論されるべきだろう。
前出の「子どもの医療制度の在り方等に関する検討会」では、厚生労働省による受療動向に関する統計から、助成で自己負担が小さくなることによる過剰な受診は統計に表れるほど増えてはいないとされたが
6、一部で、過剰と思われる受療があるとの意見もあった。また、助成が受けられない年代の重度の疾病を抱えた若者もいる中で、子どもだけを助成するので良いのか
7、いったん拡充した助成を縮小するのは難しいと考えられることから、今後も助成を継続できるのか、親の不安解消のための相談窓口等といったサポート
8や貧困対策を充実すべきではないか等、課題は多い。
さらに言えば、同研究会では、この助成制度による子どもの健康への効果については、検証をすべきとの意見が出たにとどまり、充分な確認がなされておらず、子育て世帯の呼び込みには成功している例があるようだが、子どもの健康維持・増進に対する効果の有無はよくわかっていない。
乳幼児医療費助成制度による子どもの健康への影響に関する調査報告はあまり多くはない。高久(2016)
9では、未就学児、就学児とも、医療費助成を受けても入院する確率は下がらないこと、未就学児については限定的に有訴確率が低下すること、就学児については、検討したすべての健康指標に関して、健康水準を改善しないことを明らかとし、医療費の助成拡大による健康の改善効果は限定的なことを示唆している。また、加藤ら(2016)
10では、高所得地域では入院件数を有意に増加させる一方で、低所得地域では助成対象の引き上げによって、インフルエンザなど外来で治療可能な疾患による入院が減少したことを明らかとし、所得レベルに応じた助成が必要であることを示唆している。
6 厚生労働省「患者調査」で外来・入院受療が横ばいで推移していること、「社会医療診療行為別統計」で、休日・夜間等受診が横ばいで推移して統計に表れるほど過剰受診が増えてはいないとされた。ただし、他の年代では受療は減少している。
7 たとえば、15歳以上30~40歳前後のがん患者は、AYA世代と呼ばれ、小児がんでも成人のがんでもなく、受診できる医療機関が少なかったり受けられる公的支援が少ないケースが問題となることがある。
8 親の心配しすぎによる受診増加は、必ずしも悪いとは言えない。しかし、相談窓口で解消できるものも多いと考えられている。かかりつけ医を持つことや小児救急電話相談事業(#8000)など電話による医療相談窓口、子どもの病気に関する講座などによる助言やサポートによって、受診を適正化できた自治体がある。
9 ⾼久玲⾳「乳幼児医療費助成制度が子どもの健康へ与える影響に関する研究について」2016年1月、医療経済研究機構プレスリリース
10 加藤弘陸他 "The effect of reducing cost-sharing for children on utilization of inpatient services: Evidence from Japan"、2016年、第11回医療経済学会
5――子どもの健康維持・増進が目的か。子育て世帯への経済的支援が目的か。