欧州経済見通し-失速免れる見通しも不確実性高い―

2018年12月11日

(伊藤 さゆり) 欧州経済

■要旨
  1. 2019年のユーロ圏経済は、失速は免れる見通しだが、不確実性が高い。
     
  2. 2019年5月の欧州議会選挙でも各国の選挙でも、移民・難民政策が主要な争点の1つとなり、世論と政治の分断が進む傾向は止まりそうにない。
     
  3. 19年3月にEU離脱を予定する英国の見通しの不確実性はとりわけ高い。ユーロ圏にとっても英国のEU離脱はリスクの1つだが、全体の腰折れを招くことはないだろう。
     
  4. 19年のユーロ圏経済は、世界的な景気減速もあり、実質GDPは1.6%と17年をピークとする減速が続くが、消費と投資を両輪とし、潜在成長率並みのペースは維持する。
     
  5. ECBは18年末の国債等の買い入れ停止に続き、19年9月には現在マイナス0.4%の中銀預金金利の引き上げに着手する。
     
  6. イタリアの財政の問題の本質はユーロ圏内での競争力の格差にある。ユーロの持続可能性を高めるには抜本的なユーロ制度改革が必要だが、独仏の指導力低下、イタリアのポピュリスト政権への警戒、欧州議会の構成の多様化などが政策決定のスピードを削ぐ。
     
  7. 欧州発の危機はなくとも、仮に、既存の枠組みで対応しきれない問題が生じた時、危機対応に必要な強力なリーダー・シップを欠くことが大きな問題となるおそれがある。

経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり(いとう さゆり)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴

・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職

・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
           「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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