オフィスは需給逼迫が継続。Jリートは物件の入替を積極化。-不動産クォータリー・レビュー2018年第3四半期

2018年11月09日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

(5) 物流施設
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2018年第3四半期)は前期比+0.8%の6.1%、近畿圏は前期比▲2.5%の15.0%となった(図表-27)。2019年第1四半期の空室率は、首都圏で6.5%、近畿圏で14%程度となる見通しである。

一五不動産情報サービスによると、2018年7月の東京圏募集賃料は4,260円/坪(前期比▲40円)となり、目立った動きはみられない。募集物件数は減少しており、特に東京都や神奈川県の臨海部でその傾向が顕著である。関西圏の募集賃料は3,400円/坪(+50円)となった。

4. J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

4. J -REIT(不動産投信)・不動産投資市場

(1) J -REIT(不動産投信)
2018年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は、6月末比0.7%上昇し年初からの上昇率は6.9%に拡大した。セクター別ではオフィスが2.2%、住宅が2.8%上昇する一方で、商業・物流等が▲2.0%下落した(図表-28)。需給面では、REIT市場の高い利回りに着目した海外投資家やETF(上場投資信託)経由の資金が流入する一方で、物件取得に伴う公募増資の発表も多くREIT指数はもみ合う展開が続いている。9月末時点のバリュエーションは、純資産9.4兆円に保有物件の含み益2.7兆円を加えた12.1兆円に対して時価総額は12.9兆円でNAV倍率は1.06倍、分配金利回りは4.1%(対10年国債利回りスプレッド4.0%)である。
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,615億円(前年同期比+84%)と大幅に増加した。この結果、1-9月累計は1兆5,853億円(+41%)で昨年の取得額(1.3兆円)を既に上回っている(図表29)。国内の不動産売買額が昨年比で横ばいとなるなか、J-REITによる取得割合が高まっている。アセットタイプ別では、オフィス(36%)、物流(30%)、ホテル(13%)の順に多い。
こうしたなか、REIT各社の業績は引き続き堅調で分配金が拡大している。2018年上期(1~6月)の決算をみると、市場全体の1口当たり分配金は前年同期比+4.4%となった(図表30)。昨年と比べて伸び率は鈍化したものの増配基調を維持しており、期初予想に対する上方修正率もプラス2.0%となっている。オフィスビルを中心に賃料収入が拡大していることに加えて、不動産売却益が分配金を押し上げている。
昨年来、REIT各社は現在の不動産価格の上昇を好機と捉え、物件の入れ替えを積極化しており、2017年は約3,400億円、今年上期もすでに2,500億円を超える不動産を売却した。これに伴う売却益も膨らんでおり、経常利益に占める売却損益の割合は昨年が6.1%、18年上期が5.4%と高水準にある。こうしたポートフォリオの改善と含み益の顕在化を目指す物件の入れ替えは市場の評価も高く、今後も継続することが予想される。
(2) 不動産投資市場
日経不動産マーケット情報によると、2018年第3四半期の不動産売買額は、前年同期比20%増の9,053億円となり、前年割れした第2四半期から一転して増加した。内訳を見ると、うめきた2期の土地(約1778億円)など大型の土地取引が多く、全体の34%を占めた。一方で、オフィスは22%とやや低調であった。また、件数は前年同期比13%増加した。

RCAによると、2018年第3四半期時点の海外投資家による日本の不動産売買金額は、12ヶ月累計でネット249百万ドルとなり、売買額は拮抗している(図表31)。

また日銀によると、4-6月の「個人による貸家業へ新規貸出」は、前年比で▲22.5%減少した(図表32)。今のところ市場全体への波及は限定的だが、金融機関の不動産業向け貸出姿勢の変化に引き続き注視が必要である。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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