5|その他の選択肢
これ以外にも4つの選択肢の変形版、あるいは組み合わせが有り得る。例えば、韓国のような国単位の一元化ではなく、都道府県単位に統合する方法も考えられる。これは医療行政の都道府県化が進んでいる点と平仄を合わせられるメリットがある。だが、事業主負担の有無など、国への一元化と同じ課題が想定されるほか、運営責任を都道府県に担わせる場合、全国知事会の反対が予想される。
さらに、75歳以上を対象とした広域連合を都道府県化された国保と統合する案が想定される。この案だと、被用者保険の枠組みを維持しつつ、被用者保険を脱退した高齢者は国保に加入する以前の枠組みと同じになるが、国保の財政基盤は都道府県単位となることで強化される。この案も医療行政の都道府県化の流れとマッチしており、一定程度は保険者機能
29の発揮を期待できる
30。実は、この案については、後期高齢者医療制度の見直しが浮上した頃、政治主導の議論として取り沙汰された経緯
30があり、2018年4月からの都道府県化の基礎となった面がある。だが、この案では被用者保険と国保は分立したままであり、非正規雇用労働者の問題が残るほか、運営責任を都道府県に担わせる場合、全国知事会の反対が予想される。
協会けんぽと健保組合の統合と都道府県化という案も想定される。既に触れた通り、これは日医が推している案だが、被用者保険の財政調整にとどまるため、高齢者医療費の問題解決に繋がりにくい上、「従業員と経営者で自治的に運営している健保組合の枠組みを壊すのか」といった批判も想定する必要がある。
リスク構造調整の変形として、規制競争(Regulated Competition)という選択肢も有り得る。既述した通り、これはドイツ、オランダで導入されている仕組みであり、被保険者に保険者選択の自由を与えることで、保険者の再編だけでなく、保険者機能を強化することを目指している。この選択肢については、健保組合の合併再編など被用者保険の枠組みにドラスティックな変化を期待できる反面、保険者がリスクの高い被保険者の加入を拒否する「リスク選択」の危険性を払拭し切れない点
32、非正規雇用労働者の問題、高齢者医療費の問題などが課題となる。さらに、同じ会社に働く社員が別々の健保組合に加入することになるため、「従業員と経営者で自治的に運営している健保組合の枠組みを壊すのか」という指摘も想定される。
29 ここで言う保険者機能は「医療制度における契約主体の1人として責任と権限の範囲内で活動できる能力」と定義する。山崎泰彦(2003)「保険者機能と医療制度改革」山崎泰彦・尾形裕也編著『医療制度改革と保険者機能』東洋経済新報社を参照。
30 しかし、都道府県の知事や議会は国保の加入者だけでなく、被用者保険の加入者からも選ばれており、国保被保険者だけの代表ではないという点で見ると、自治や代表性では課題が残る。
31 例えば、舛添要一厚生労働相は私案として、「国民健康保険が県民健康保険に変わると思っていい」と述べた。2008年9月30日閣議後記者会見概要。さらに、民主党政権はマニフェスト(政権公約)に制度廃止を明記し、2009年9月の政権交代後には有識者や関係団体の代表で成る「高齢者医療制度改革会議」を設置し、国保の広域化が模索された。その後、2010年5月に国保の広域化を進める法改正、12月には国保の広域化を求める会議報告書が公表された。
32 リスク選択とは、持病のある人などリスクの高い人の保険加入を保険者が拒否することである。ドイツの制度ではリスク選択が禁じられているが、競争にさらされている保険者にとってリスク選択は合理的な行動であり、その可能性は残ると言わざるを得ない。