(イ) コワーキングスペースのサービス・プラットフォーム化
従来のコワーキングスペースはオフィスというハードを小分けにして貸し出すというビジネスだった。WeWorkはそれに加えて、福利厚生や業務支援などのソフトについても、関連企業と提携することで、小分けにして提供している。例えば、人事管理代行大手のTriNetと提携することで、スタートアップやフリーランスが加入することが難しかった条件で健康保険に加入できる。また銀行大手JP Morgan Chaseの決済サービスや物流大手UPSの配送サービス、MicrosoftやAWSなどのソフトやクラウドを割引料金で利用できる。
これはスタートアップやフリーランスなど小規模のメンバーにとって、従来享受することが出来なかった大企業並みのサービスを受けられることを意味する。それと同時に、提携企業にとっては、有望なスタートアップなどと早期からコンタクトを持ち、囲い込むことも可能になる。そのため、WeWorkは提携企業から紹介料を徴収することができ、同社の収入源を多角化することができる。
さらに同社は2017年4月にWeWork Services Storeというサービスを開始した。WeWork Services Storeでは、100以上の企業が250以上のソフトやサービスを提供している。同Storeでは、企業の成長ステージに合わせた活用事例なども紹介され、メンバーがレビューを投稿することが可能だ。同Storeは、スマートフォンなどのアプリストアのビジネス版とも言え、企業向けのソフトやサービスの提供者とメンバーを結びつけるプラットフォームだ。これは同社の従来の福利厚生や業務支援の小分けサービスをプラットフォームへと進化させたものだとも言える。
(ウ) データを活用したオフィスの再定義
WeWorkは、社内に建築士やアーティスト、デザイナーなどを抱え、オフィス空間をインハウスでデザインしている。また同社では、データを活用することで、オフィスの生産性向上を図ることを重視している。メンバーのイノベーションやコラボレーションを活性化し、アウトプットを最大化することに加え、WeWorkが効率的にコワーキングスペースを構築・運営できるようにしているのだ。例えば、廊下の広さもメンバー間のコミュニケーションを活性化することを目的に設計している
24。またゴミ箱一つにしても、拠点のメンバー数からどのくらい必要か、どのように配置すれば、利用者・運営者にとって効率的かデータをもとにデザインするなど、同社が提案する対象は細部に及ぶ。
また同社は2015年にBIM
25に強みを持つ建築事務所Caseを買収し、BIMをベースとした設計・施工プロセスのデジタル化に取り組んでいる。BIMを活用することで、空間効率を15~20%改善できるとも言われている
26。また同社はAI(人工知能)などの先端技術の活用にも積極的である。同社では、800以上の会議室の活用状況をAIによって分析し、会議室の稼働率を最適化する取り組みも進めている。さらに、同社はAmazonが開発したAI「Alexa」をアシスタントとして活用するAlexa for Businessの最初のパートナーの一つとなっている。
これまで不動産におけるデータ活用は、他分野と比較して遅れているとされ、オフィス空間は最大公約数的な造りとなることが多かった。同社のイノベーション・グループの責任者であるマーク・タナー氏がこのことを次のように指摘している。
今までの会社ビルというのは、社員をビルの中に入れておくためのものでした。今、私たちは、社内にいながら、どうしたら効率よく、スマートな決断を下すことができる環境を作れるかということを提案していきたいのです27。
なお同社がデータを活用できるのも、多数のコワーキングスペースを運営し、そのデータを蓄積しているからである。データの蓄積と活用がさらに進めば、今後、利用者のニーズやアクティビティにあわせて最適化された空間へと、オフィス環境が変革されていく可能性がある。IBMはWeWorkが設計・運営しているマンハッタンのオフィスを一棟借りするなど
28、同社はコワーキングスペースで培ったノウハウを活かして、大企業に対して、ワークプレイスの設計やデザインに加え、運営までを行うサービスを提供している。WeWorkはデータを活用して、オフィスを再定義しようとしているとも言えよう。
24 安部 (2017) 参照。
25 BIM(Building Information Modeling)とは、「従来のような2次元の建物の図面情報だけでなく、使用材料や性能などの仕様情報も加えた3次元の建物モデルをコンピュータ上で構築し「見える化」するもの」(株式会社大林組HP参照)
26 Rhodes, Margaret (2016) 参照。
27 津山 (2017b) 参照。また、WeWorkでは、スマホをデスクにかざすことで、デスクの高さが自分の好みの高さに自動で調整される機能など、個々人に合わせたカスタマイズ機能を導入する取り組みも行っている。
28 Putzier (2017) 参照。