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プラットフォームとビッグデータ:Amazonに蓄積される膨大なデータ
プラットフォームの経済性が発揮され、多数のユーザーがプラットフォームに集まるようになると、大量のデータが蓄積されるようになる。プラットフォーマーは、それらのデータを活用してビジネスを最適化することが可能となる。中国EC大手アリババ集団会長のジャック・マー氏が「データは新しい石油になる
3」と表現したように、データは現代のビジネス環境において必要不可欠な存在だ。また、データはそのままでは使えないという点も石油と同じである。石油が精製・加工されることで利用可能になるのと同様に、データも選別や分析などの処理をすることではじめて現実世界で役に立つようになる。
AmazonはECを通じて、膨大な顧客データを蓄積し、活用してきた。例えば、同社のECサイトには「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった、おすすめ機能がある。同機能は、協調フィルタリングというアルゴリズムを使っている。協調フィルタリングは、購買履歴などの大量のデータから似ている顧客をセグメント化し、セグメント内の顧客が購入した商品をおすすめするというものである。
これまでリアルの商業店舗も、クレジットカードやPOSなどのデータをもとに、顧客をセグメント化して、マーケティングを行ってきた。しかし、マクロデータなどをもとに、居住地域や年齢、所得など、顧客の属性からニーズを推測するというものが一般的だった。ECではこれらのデータに加え、ECサイト内での行動など、個々人のミクロデータを用いて、顧客行動を分析できる。これにより、顧客のセグメントを1人単位にまで落としこみ、個々人の特性やニーズを反映したマーケティングが可能になったのだ。またAmazonではさらにセグメントを細分化し、個々人のニーズが状況や時間によって変化することに焦点をあて、リアルタイムのニーズを把握する0.1人単位のセグメンテーションにも対応できるようになってきている
4。これまで小売業者が顧客一人ひとりを理解することは困難だったが、ECでは個々人の刻一刻と変化するニーズまでも把握することが可能になるかもしれないのだ。
また同社は顧客のニーズだけでなく、市場動向を分析する上でもプラットフォームで収集したデータを利用している。同社は、ECプラットフォームの運営者であると同時に、販売者でもある。そのため、マーケットプレイスでの第三者の販売動向などを見ながら、同社の販売戦略を構築し、また新商品を開発することも可能である。規模や資本力でAmazonに勝る販売者は少なく、同一または同機能の商品を同社以上に低価格で販売することができる小売業者も限られるため、Amazonは他社の販売動向などを知ることで、同社のシェアをさらに拡大し、収益を拡大することができるのである
5。
Amazonはこれまで主にオンラインのデータを蓄積してきたが、米自然食品スーパーWholefoods Marketの買収やAmazon Books、Amazon Goといったリアル店舗の出店、AIスピーカーなどの事業に進出することでオフラインのデータの収集も拡大している。今後、オンラインで培ったデータ分析能力をオフラインにも活用していくことで、消費行動の一層の把握が可能となり、同社の優位性がさらに高まる可能性がある。
3 日本経済新聞(2017)参照。
4 Weigend (2017) 参照。
5 Stone (2013)、田中(2017) 参照。