日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が24と前回12月調査比で2ポイント下落し
1、8四半期ぶりに景況感の悪化が示された。大企業非製造業の業況判断D.I.も2ポイント下落の23となり、6四半期ぶりに景況感が悪化した。
前回12月調査では、世界経済の回復などを受けて大企業製造業の業況判断D.I.が改善し、11年ぶりの高水準となったほか、大企業非製造業の業況判断D.I.も横ばいを維持していた。
その後、年始以降は企業への逆風が強まっている。米金利上昇を受けて世界的に金融市場が不安定化したことなどから大幅な円高が進行し輸出採算が悪化している。また、原材料価格の上昇が素材業種を中心に採算悪化要因となったほか、人手不足(とそれ伴う人件費増加)や大雪・野菜価格の高騰も一部で景況感の下押し要因となったとみられる。海外経済の回復を受けて、輸出(数量)やインバウンド需要は底固さを維持しているほか、雇用の回復や五輪を控えた建設需要も続いていることから、景気回復基調が途絶えたわけではない。従って、景況感の大幅な悪化は避けられたものの、前回調査からは弱含むこととなった。景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々を対象とする景気ウォッチャー調査では、既に昨年12月以降3ヵ月連続でマインドが悪化しており、短観の結果もこれを追随する形になった。
大企業製造業では主に円高の進行による輸出採算の悪化や原材料価格の上昇を受けて、景況感が小幅に悪化した。大企業非製造業も主に原材料価格の上昇や人手不足(とそれ伴う人件費増加)の影響で景況感が小幅に悪化した。
一方、中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から横ばいの15、非製造業が前回から1ポイント上昇の10となった。基本的に強弱材料は大企業と同様だが、中小企業は昨年来の景況感改善が大企業よりも遅れており、景況感の水準も相対的に低かっただけに、今回は悪影響が出にくかったとみられる。
先行きの景況感については幅広く悪化が示された。全規模全産業では現状比で5ポイント悪化となっており、悪化幅は前回調査(4ポイント悪化)を上回った。金融市場の動揺は未だ完全には収まっておらず、今後の円高・株安進行に対する企業の警戒感は根強い。さらに、最近の米トランプ政権は保護主義的な動き(鉄鋼・アルミの輸入制限策決定、中国の知的財産権侵害への制裁検討など)を強めており、その直接的な影響に加えて、報復合戦に伴う貿易戦争勃発さえも懸念される状況にある。輸出関連企業のみならず、消費・サービス関連企業もインバウンドを通じて海外経済の影響を受けやすくなっているだけに、幅広く先行きへの懸念が現れた。
国内要因では、人手不足に緩和のメドが立たないことが、事業の円滑な遂行に対する懸念材料として台頭していると考えられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計25、当社予想は24)、先行き(QUICK集計22、当社予想は18)ともに予想をやや下回った。大企業非製造業も、足元(QUICK集計24、当社予想も24)、先行き(QUICK集計22、当社予想は18)ともに市場予想をやや下回った。
2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比4.0%増と前回調査時点(4.4%増)から小幅に下方修正された。
一方、今回から新たに調査・公表された2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2017年度計画比で0.7%減となった。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体に意味はなく、近年の3月調査との比較が重要になる。今回の前年度比0.7%減という水準は近年同時期の調査を上回り、3月調査としては2007年度以来の高水準となる。円高や米保護主義の動きへの警戒はあるものの、足元の良好な企業収益や人手不足に伴う省力化需要などが追い風となり、強めの計画に繋がったとみられる。
ただし、今後、為替がさらに円高に向かったり、米保護主義の動きがさらに強まって、世界経済に悪影響を及ぼしたりすれば、設備投資計画が慎重化する恐れがある。
販売価格判断D.I.は大企業・中小企業ともに製造業を中心に上昇した。原材料高などに伴う仕入価格の上昇や人手不足に伴う非正規などの人件費上昇が背景にあるとみられるが、今後、最終財にどこまで価格転嫁の動きが波及するのかが注目される。
今回の短観では、企業の景況感弱含みのほか、先行きへの根強い警戒感も示されたが、日銀の金融政策への影響は限定的になりそうだ。景況感の水準自体は依然として高い水準を維持しているうえ、内外のファンダメンタルズは今のところ堅調に推移しているためだ。
日銀は「物価目標に向けたモメンタム(勢い)は維持されている」との整理のもと、現行の金融政策を維持しつつ、金融市場や米保護主義の動向ならびにそれらが企業活動や実体経済へ及ぼす影響を注視するスタンスを継続するだろう。
1 2018年3月調査より調査対象企業の定例見直しが実施されることに伴い、本文中の前回12月調査の値は12月公表ベースではなく、調査対象見直し後の再集計ベースの値を使用している。
2.業況判断D.I.:製造業は弱含み、非製造業は横ばい