欧州経済見通し-裾野広がるユーロ圏の景気拡大/英国EU離脱まで1年-

2018年03月09日

(伊藤 さゆり) 欧州経済

■要旨
  1. ユーロ圏では、良好な外部環境と政策の下支えにより景気拡大のペースが上がり、地域的にも、需要面でも、裾野の広い拡大が続いている。
     
  2. 個人消費は雇用・所得環境の改善に支えられた堅調な推移が見込まれ、固定資本投資は、高稼働率、域内外の需要拡大と緩和的な金融環境の下で、引き続き機械設備投資主導の拡大が期待できる。今後、労働市場の緩みの縮小も進むが、圏内での労働移動や改革の進展など固有の要因も働き、賃金の伸びは高まるが、そのペースは穏やかだろう。
     
  3. 18年の実質GDPは前年比2.2%と2%超の成長が続くが、インフレ率は同1.5%と予測する。ECBの資産買い入れ停止は18年12月末、利上げは19年4~6月期に預金金利のマイナス幅の縮小から着手するだろう。
     
  4. ユーロ圏見通しのリスクは、外部環境の悪化、急激な通貨高、金利上昇である。ユーロ制度改革の必要は引き続き高いが、政治・世論の変化で困難さが増している。
     
  5. 英国はマイルドな成長鈍化と高インフレに直面している。18年の実質GDPは前年比1.4%、インフレ率は同2.8%と予測する。1年後に迫るEU離脱の当面の焦点は、3月の首脳会議で移行期間の合意の可否。EUとの将来関係についての英政府、EUの方針にも隔たりは大きい。メイ政権の基盤の弱さもあり、先行きの不透明感は著しく高い。
■目次

1.裾野広がるユーロ圏の景気拡大
  ・年率2%を超える成長持続。すべてのユーロ参加国で景気は拡大
  ・需要面でも景気拡大の裾野広がる
  ・雇用改善も労働市場の緩みは残る
  ・続く低インフレ、弱い賃金上昇圧力。ECBは緩和縮小への慎重姿勢を維持
  ・18年経済見通し:消費と投資を両輪とする自律的な成長と低インフレ続く
  ・ECBの金融政策:緩和バイアス解除。
   18年末に資産買い入れ停止、19年に利上げ開始
  ・リスクは外部環境悪化、急激な通貨高、金利上昇
  ・ユーロ制度改革の必要は引き続き高いが、政治・世論の変化で困難さ増す
2.英国EU離脱まで1年
  ・低成長と高インフレ基調変わらず、BOEは5月にも追加利上げへ
  ・離脱関連では3月22~23日のEU首脳会議が当面の山場
  ・将来の関係でも双方の立場に隔たり、協議も難航が予想
  ・政権基盤の弱さも加わり、想定されるシナリオは様々

経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり(いとう さゆり)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴

・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職

・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
           「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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