都道府県と市町村の連携は可能か-医療・介護の切れ目のない提供体制に向けて

2018年02月23日

(三原 岳) 医療

■要旨

医療・介護業界で「惑星直列」と呼ばれていた2018年度制度改正の全体像が少しずつ見えて来た。国レベルでは診療報酬と介護報酬、障害者福祉サービスの報酬がそれぞれ改定されるほか、都道府県レベルでは医療計画と医療費適正化計画の改定、国民健康保険の都道府県単位化に向けた手続きが進んでいる。市町村でも介護保険事業計画の改定が3月末までに進む。

では、こうした制度改正が進むと、医療・介護の現場や市民の生活はどう変わるだろうか。大きな方向性として、医療行政に関する「都道府県の総合的なガバナンス」が強化される一方、介護保険に関する市町村の「保険者機能」を強める方向で制度改正が進んでおり、医療行政に関する都道府県の役割と、介護行政についての市町村の役割がそれぞれ大きくなることは間違いない。

一方、診療報酬や介護報酬で重点分野とされている在宅ケアは医療・介護の垣根が低く、医療・介護連携など切れ目のない提供体制を構築する上では、都道府県、市町村の連携が求められる。国としても、住民向け相談窓口の設置などを図る「在宅医療・介護連携推進事業」を進めるよう市町村に求めているが、医療提供体制に関する市町村の動きは必ずしも積極的とは言えない。

本レポートでは、医療・介護分野の制度改革を概観した上で、都道府県、市町村に期待されている役割を考察し、両者の連携が必要な在宅ケアを中心に、切れ目のない提供体制の構築を図る上で、市町村が医療提供体制に関与していない点を課題として挙げる。

さらに課題解決の方策として、現行制度における自治体独自の動きも踏まえつつ、在宅医療やプライマリ・ケアの整備、医療・介護連携など身近な医療政策について、市町村に医療計画の策定を義務付ける制度改正を提案する。

■目次

1――はじめに~問われる都道府県と市町村の連携~
2――「惑星直列」の内容
3――都道府県に期待されていること
4――市町村に期待されていること
5――都道府県と市町村の連携
  1|両者の連携が必要な分野
  2|在宅医療・介護連携推進事業の実施状況と課題
  3|市町村独自の取り組み
  4|都道府県独自の取り組み
6――行政学的な整理からの考察
7――高齢者住宅の事例
8――おわりに~都道府県と市町村の連携を~

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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