2|代替手段とその限界
英国で活動する金融機関は多様であり、シングル・パスポートの重要性が業務によって異なることから、影響は業態によって異なる。また、英国とEUが、新たな協定でシングル・パスポートに代替する措置として、どのような合意に至るかによっても金融機関への影響は変わる。
英国政府は今年2月に公表した「離脱白書」で
8、EUとのFTAでは、金融サービス分野では「可能な限り自由な取引」を目指す方針を掲げている。白書には、具体的な交渉の内容についての記述はないが、EUが域外の第3国の規制や監督体制がEUと同等を認め単一市場へのサービスの提供を認める「同等性評価」と金融監督面での「相互協力協定(mutual cooperation arrangements)」に言及している
9。英金融サービス部門のロビー団体である「ザ・シティUK」は
10、EU単一市場と英国市場のアクセスを相互に認め、規制・監督面では協調体制をとる「特別な協定(bespoke deal)」を求めている。協定の締結には年単位の時間を要するとの認識から、交渉を離脱協議と並行して進めて、不確実性の削減に努めることと、十分な移行期間を設けることを求めている。
EUの「同等性評価」は、個別の法令ごとに、対象国の国内法の「同等性」を承認する。シングル・パスポートのように業務を横断的にカバーする制度ではない。CRD Ⅳや資産運用は現存の枠組みでは「同等性評価」の対象となっていない
11。さらに、EUの欧州委員会による同等性評価には、年単位の時間が掛かる。追加の条件を求めることや、対象国の規制に逸脱が生じたと判断した場合には予告なく取り消すなど安定性の問題もある。業務の内容によっては加盟国やその監督機関が決定に関与する場合もある。
EU側がEUの金融市場で、英国が果たしている特別な役割を考慮して現存する枠組みを超えた「特別な相互優遇措置」を締結する可能性はあるが、現在よりも自由度が低下することは避けられない見通しだ。単一市場を守るため、EU加盟国やEEA参加国よりも有利な条件を認めることはできないというコンセンサスがあるからだ。
8 HM Government(2017)
9 HM Government (2017) p. 42
10 The CityUK (2017a)
11 House of Lords European Union Committee(2016)、International Regulatory Strategy Group(2017)、Lanno, Karel(2016)などで詳しく検討されている。