韓国における公的扶助制度の現状と課題(前編)-生活保護制度から国民基礎生活保障制度の導入まで-

2017年03月08日

(金 明中) 社会保障全般・財源

(4)給付の拡大や自治体の財政自立度を考慮
生活保護制度では生活保護、自立保護、教育保護、出産保護、医療保護、葬祭保護という6つの給付を提供していたものの、国民基礎生活保障制度では既存の給付に住居給付や緊急生計給付を追加し、8つの給付が提供されることになった。また、財政基盤の弱い自治体の負担を緩和するために、自治体の財政自立度を考慮して財源の国庫補助率を差等適用(図表3)した。
(5)伝達体系を縮小
 従来の「邑・面・洞」→「市・都」→「中央生活保護委員会」という3段階の伝達体系を、「市・都」→「中央生活保障委員会」という2段階に縮小した。さらに、国民基礎生活保障制度における中央生活保障委員会ではその権限を強化し、主要事項に対する審議及び議決が可能になった(従来の中央生活保護委員会では審議のみが可能)。

3――結びに代えて

3――結びに代えて

今回は韓国における生活保護制度の導入前後から国民基礎生活保障制度の導入前後までの制度の主な変遷について紹介した。韓国政府は、従来に恩恵的な次元から実施されていた公的扶助を、国の義務や国民の権利として位置づけるために、2000年10月から国民基礎生活保障制度を施行した。韓国政府が国民基礎生活保障制度を施行した理由は、従来の生活保護制度がすべての社会的リスクに対する「包括性(Comprehensiveness)」、全社会構成員に適用される「普遍性(Universalism)」、最低限の生計が維持できる「国民生活環境最低基準(National Minimum)」の保障というセーフティーネットの基本原則を満たしていなかったからである12

国民基礎生活保障制度の実施で受給対象者に対する年齢基準がなくなり、より多くの貧困層が生計給付の対象者として選定されることになった。また、給付額も大きく増加した。しかしながら相変わらず貧困の死角地帯が存在しており、多くの貧困層が公的扶助の受給者として選定されず、経済的に大変な立場におかれていた。そこで、韓国政府は2015年に国民基礎生活保障制度を全面的に改正する改革を実施した。次回は2015年に行われた国民基礎生活保障制度改革の主な内容と現状、そして残された課題について述べたい。
 
12 保健福祉部・韓国保健社会研究院(2010)「国民基礎生活保障制度10年史」
参考文献
  • イインゼ・リュジンソソック・コンムンイル・キムジング(2015)「第13章国民基礎生活保障制度」、『社会保障論(改正3版)』ナナム
  • ガンシンウック(2016)「基礎生活保障改編の効果:選定基準の変化を中心に」『保健福祉フォーラム』2016年11月
  • 金種基(2001)「零細民の大都市集中抑制対策」韓国開発研究院
  • ノデミョン(2016)「基礎生活保障改編:趣旨と経過、そして今後の課題」『保健福祉フォーラム』2016年11月
  • 保健福祉部(2015)「2015年保健福祉統計年報」
  • 保健福祉部(2016)「2016年保健福祉統計年報」
  • 保健福祉部(2017)『2015年国民基礎生活保障受給者現況』
  • 保健福祉部(2017)「2017年国民基礎生活保障事業案内」
  • 保健福祉部「国民基礎生活保障受給者現況」各年
  • 保健福祉部・韓国保健社会研究院(2010)「国民基礎生活保障制度10年史」

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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