訪問看護師の拡充-在宅ケアの担い手の整備は進むか?

2016年07月26日

(篠原 拓也) 保険計理

2――訪問看護の現状

日本では、徐々に訪問看護の利用が伸びつつある。まず、その状況から見ていこう。

1訪問看護事業は、医師の指示に基づいて行われる
まず、訪問看護の内容から、見ていくこととしたい。訪問看護とは、疾病や負傷により、居宅において継続して療養を受ける状態にある人に対し、療養上の世話、または必要な診療の補助を、看護師等が行うことをいう。具体的には、公的介護保険の場合、居宅要介護者の、心身状況の観察、体温・脈拍・血圧・血中酸素飽和度の測定、痰の吸引、口腔ケア、食事の介助、胃瘻(いろう)からの水分・人工栄養剤・医薬品の投与、排泄の介助・おむつ交換、などを指す1

訪問看護事業は、医師の指示に基づいて、看護職員2が居宅要介護者等を定期的に訪問して、訪問看護を行うことを指す。

2訪問看護の利用者は伸びている
続いて、訪問看護の利用者数の推移を見てみよう。訪問看護は、公的医療保険と公的介護保険に給付がある。このうち、公的介護保険は、65歳以上の居宅要介護者・要支援者、40~64歳の特定疾病の居宅要介護者・要支援者が対象となる3。利用者数は徐々に増加して、2016年には、42万人に達した。
3訪問看護ステーションや訪問看護師の数は徐々に増加している
次に、訪問看護を担う、施設やスタッフの体制について見ていこう。

(1)訪問看護ステーション
訪問看護を行う施設には、大きく分けて、病院・診療所の医療機関と、訪問看護ステーション(以下、「ステーション」と呼称)の2つがある。主に、医療機関は公的医療保険、ステーションは公的介護保険に基づく訪問看護を行う。近年、訪問看護を行う病院・診療所の数は、徐々に減少してきた。一方、これに代わって、ステーションの数は増加しており、2016年には、約8,500施設となっている。
(2)訪問看護師
ステーションの訪問看護師の数は、徐々に増加しており、2014年には、約4.6万人となっている。そのうち、ステーションに常勤する訪問看護師の割合は、6割程度で推移している。
4規模の小さいステーションは経営が厳しい
一口にステーションといっても、設立の主体や、規模、収支状況など、様々なものがある。

(1)開設主体別に見たステーションの状況
ステーションごとに、現在までの成り立ちは、多種多様である。開設主体別に見ると、約4割のステーションが、営利法人(会社)によって設立されている。これに、医療法人が3割強、社団・財団法人が1割と続く。このように、ステーションには、民間が主体となって運営されているものが多い。このため、長期に渡り、安定的に事業を運営するためには、財務・収益面の基盤確保が不可欠となる。
(2)規模・収支から見たステーションの状況
次に、ステーションの収支状況を見てみよう。一般に、事業所の収支には、様々な要素が影響を与える。その中でも、経営規模が与える影響は大きい。2014年公表のアンケート調査結果によると、看護職の従事者数(常勤換算)4が5名以上のステーションは、半数以上が黒字となっている。一方、3人未満の場合、約3割が赤字(1割以上が収支を把握せず)となっており、収支面の厳しさを示している。
従事者数が少ないステーションは、固定費が割高となったり、看護師等の訪問スケジュールがタイトになったりする。その結果、サービスや、ケアの種類が限られるなど、運営上の制約が生じている。
 
1 痰の吸引と、胃瘻からの水分・人工栄養剤・医薬品の投与は、法律上は医療行為なので、医師と看護師だけに認められる行為である。厚生労働省の行政通達で、例外的に、要介護者と同居して介護している家族も、行うことが認められている。
2 看護師、准看護師、保健師、助産師を指す。
3 公的医療保険は、公的介護保険の給付対象者に加えて、居宅において継続して療養を受ける状態にあり、通院困難な患者(40歳未満の人及び40歳以上の要支援者・要介護者でない人も対象となる。なお、公的介護保険の給付は、公的医療保険の給付に優先することとされている。要介護被保険者等については、末期の悪性腫瘍、難病患者、急性増悪等による主治医の指示があった場合などに限り、医療保険の給付により、訪問看護が行われる。
4 就業時間をもとに、パートスタッフや非常勤の看護師等を、常勤の看護師等に換算した上で、従業員数を算定したもの。
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