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米国:科学技術人材育成政策への展開
ファブラボでは、子供から大人まで市民の誰もが、DIWOの精神で連携しながらデジタルファブリケーションに取り組むことにより、アイデアを形にする喜びを分かち合うとともに、ものづくりに関するリテラシーを獲得し高めることができる。すなわち、ファブラボは人々の能力を引き出すエンパワーメント(empowerment)の場となりうるということだ。
ファブラボで生まれた生活者・ユーザー視点の創造的なアイデアや発明は、参加者自らの生活や趣味に活かされることが多いとみられるが、中にはラボの運営費の一部を稼ぐビジネスに育ったり、さらには参加者による起業につながることもありうるだろう。
次世代のイノベーションを創出する人材や将来の起業家を育成する視点では、とりわけ先入観を持たない子供たちが、ファブラボで試行錯誤しながらものづくりの喜びを体感し、創造性やものづくりのDNAを育むことが極めて重要になると考えられる。ファブラボ等で、次世代を担う子供たちの潜在的な可能性を引き出し、起業家精神やチャレンジ精神を育ませる啓発活動の成否は、国のイノベーション創出力ひいては将来の国際競争力に大きく影響するだろう。
前述の通りファブラボ拠点数が世界で最も多い米国では、これまで草の根であったファブラボの活動を国策としていち早く取り上げるべく、2013年に「National Fab Lab Network Act of 2013」という法案が超党派で連邦議会に提出された
8。この法案により設立されるNational Fab Lab Network(NPO形態)では、人口70万人につき少なくとも1か所のファブラボを構築することを目標としており、これは街に「21世紀の図書館」を整備していくことであると考えられている。
本法案の主眼は、オバマ政権が初等中等教育段階からの科学技術人材育成政策として推進する「STEM(Science, Technology, Engineering and Math) 教育」で求められるスキルを学生が身に付けるのを支援し、次世代を担う起業家やイノベーターを育成することだ。
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バルセロナ市:都市政策への展開
ファブラボの先進地域であるスペイン(ファブラボの拠点数は世界で7番目に多い)のバルセロナ市は、ファブラボでの取組を活用して、クリエイティブシティ(創造都市)やスマートシティ(環境配慮型都市)への進化を目指している。同市では、街単位でファブラボを設置するとともに、街そのものをファブラボで作りかえようという「ファブシティ(Fab City)」構想を打ち出し、都市政策の中心にファブラボを据えている。これまで以下のような具体的取組が相次いで打ち出されてきた。
2010年にデジタル工作機械を活用して製作した実験的太陽光発電住宅「Solar Fab House(ソーラー・ファブ・ハウス)」を発表し、世界を驚かせた(図表1)。CNCルーターとレーザーカッターを用いて、すべて木材から自前で切り出した部材を、まるでプラモデルのように組み立てて家一軒をまるごとファブラボで自作してしまったのである。太陽の軌跡にぴったり沿う位置に、太陽電池パネルを並べて貼りつけて、自家発電を行うようにした。もちろん家具や内装もファブラボ製である
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バルセロナ市では、2012年にはファブラボの代表ヴィンセント・グアラート氏が市のシティ・アーキテクト(都市設計者)に就任した。続く2013年には、ファブラボ・バルセロナが、気温・湿度、騒音の大きさ、太陽光の強さ、空気の状態などの環境情報を市民が測定し、インターネット上のサーバにアップロードできるセンサー「Smart Citizen Kit」を開発した。設計図がオープンソースになっているので、市民は自分でも同センサーを作ることができ、作り方がわからなければファブラボに行って作り方を教えてもらうこともできるという
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このように、ファブラボが中心となって、企業、起業家、大学、行政、一般市民を巻き込みながら、都市全体の創造性・生産性の向上や生活環境の課題解決に取り組み、将来的には衣・食・住・遊にわたって、必要とするものを自分たちでつくる「自己充足型」の都市の実現を視野に入れているという。
7――むすびにかえて~ファブラボの今後の可能性