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DIY(自分で作る)からDIWO(みんなで創る)への進化を志向
個々のファブラボは、子供、学生、退職したシニア、エンジニア、デザイナー、職人、研究者など多種多様な背景を持った市民が自由に集い、自由な発想・アイデアで実際にものづくりを行えるオープンワークショップスペースであり、それは顔の見えるネットワークを形成する「リアルな場」である。
ファブラボでは、"Learn(ツールの使い方を学び)"→"Make(ツールを使って実際にものを作り)"→"Share(その成功体験や失敗体験を他者と共有する)"をグローバル共通の基本サイクルとしており、「ラボは機材貸しの場所ではなく、集う人々が共にものを創る場所」であるとの発想で運営されている。ラボに集う人々が実際のプロジェクトを通じて、異なる背景を超えて緩やかにつながり、互いに教え合い学び合うのがファブラボの特徴であると言える。
デジタルデータを基に3Dプリンターなどデジタル工作機械を用いてものづくりを行う「デジタルファブリケーション」は、個人によるものづくりを指す「パーソナルファブリケーション」と呼ばれることが多いが、ファブラボでのデジタルファブリケーションは、共創によるものづくりを指す「ソーシャルファブリケーション」の方が実態に近い。言い換えれば、ファブラボは、"DIY:Do It Yourself(自分で作る)"から"DIWO:Do It With Others(みんなで創る)"への進化を志向しているのである。
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世界中のファブラボを橋渡しする国際的ネットワーク
前項で述べた個々のラボ内での市民の緩やかなつながりに加え、世界中のラボを橋渡しする国際的ネットワークがファブラボの重要な特徴だ。
この国際的ネットワークには、まず設計データの共有などネットでつながることが可能であるという、デジタルファブリケーションの特性をフル活用した「バーチャルな場」としての側面がある。すなわち、ファブラボでは、ウェブ環境を活用して、ものづくりに関する知識・ノウハウやデザインなどの世界規模での共有活動、換言すれば「オープンソース化」に取り組んでいる。既述の通り、それを可能とするインフラとして共通の推奨機材を備え、そして実際にこの活動に協力・参加することが、ファブラボの名称を利用するための条件にもなっている。
オープンソース化の一例としては、ファブラボ鎌倉で、地元の革職人とデザイナーによるユニット「KULUSKA(クルスカ)」が作成したスリッパキットのデータをウェブ上でオープンにしたところ、ケニアのファブラボがそのデータを活用しつつ、地元の素材であるフィッシュレザー(世界最大の食用魚ナイルパーチの革をテグスで縫ったもの)を用いるなどのアレンジを加えて商品として販売し、ラボの収益源になったという例が挙げられる
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KULUSKAは、ファブラボ鎌倉からの提案により「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」
3を利用し、KULUSKAのロゴを載せることをデータ利用の条件としている。ケニアのファブラボの近隣にオバマ大統領の祖母サラ・オバマ氏が在住しており、オバマ大統領の顔が刻印された、KULUSKAのデータを用いて作った真っ赤なスリッパをサラ・オバマ氏に贈呈したところ大変喜ばれたという。
さらに世界中のファブラボ関係者が一堂に会する場として、世界ファブラボ会議が年1回世界のどこかで開催されており、国際的ネットワークにおけるフェースツーフェースの「リアルな場」となっている。そこでは、ワークショップ、実習、シンポジウムなど多様な活動を通じて、情報共有の深化が図られており、日本では、2013年に第9回(Fab9と呼ばれる)が横浜で開かれた。
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リアルな場とバーチャルな場を最適融合したネットワーク構造
このように、ファブラボでは、デジタルファブリケーションの特性を活かした、ウェブ環境下でのオープンソース化の推進により、世界中のラボ間にバーチャルで緩やかなネットワークが張り巡らされる一方で、各ラボ内でのDIWOに向けた取組や世界ファブラボ会議の開催などにより、顔の見えるリアルな場の構築にも十分な注意が払われている。バーチャルな場とリアルな場を最適融合させることにより、ローカルおよびグローバルレベルで知識や創意工夫の結集を図っている点が特筆される。
ファブラボのネットワークをソーシャル・キャピタル論に当てはめると、ローカルレベルでは、個々のラボ内での人的ネットワークの緊密性を緩やかに高めつつ、グルーバルレベルでは、世界中の多様なラボ間を橋渡しするソーシャル・キャピタルを国境を超えて張り巡らせることに成功していると言えよう
4。そして個々のラボに集う人々や世界中のラボにとって、既述のファブラボの4要件やファブラボ憲章が共通の拠り所となっており、これが緩やかなものづくりコミュニティの一致結束を図る役割を担っていると考えられる。
2 詳細な説明については、渡辺ゆうか「ほぼなんでもつくるファブラボ ファブラボ鎌倉における実践とその可能性」科学技術振興機構(JST)『情報管理』2014年12月号を参照されたい。
3 CCライセンスとは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールである。CCライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。
4 ソーシャル・キャピタルとは、コミュニティや組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、コミュニティ・組織を円滑に機能させる「見えざる資本」であると言われる。
5――ファブラボとメイカームーブメントの共通点