この章において、ドイツの公的医療保険
2制度の概要を説明する。
保険者の代表団体である
疾病金庫中央連合会(GKV-Spitzenverband)の資料によれば、「ドイツの公的医療保険の基本的構造原理は、(1)
連帯原則(全ての被保険者が、その所得や支払った保険料の額や罹患リスクに係らず、医学上必要な給付を受けることが保証されている)、(2)
現物給付(被保険者が前払での支払をすることなく、給付を受けることが保証されている)、である。」とされている。
1|加入者(被保険者)3
ドイツにおいては、全ての国民に対して、公的医療保険への加入が義務付けられているわけではない。社会保険法典が「公的保険への加入義務者のある人」と「公的医療保険への加入義務のない人」を定めているが、これに基づくと、公的医療保険の加入者は、以下の通りに分類される。
(1)公的医療保険への加入義務がある人(
強制被保険者(Pflichtversicherte))
・所得が一定の基準所得(Jahresarbeitsentgeltgrenze)(2016年1月現在、年間56,250ユーロ)以下の被用者(ブルーカラー、ホワイトカラー)
・公的年金の年金受給者 ・失業手当受給者
・農業経営者及びその家族従事者 ・芸術家及び著述家
・学生 等
(2)公的医療保険への加入義務がない人のうち、公的医療保険加入を選択した者(
任意被保険者(Freiwillig Versicherte))
「公的医療保険への加入義務のない人」は、
・所得が一定の基準所得を超える被用者
・自営業者((1)に含まれる芸術家等を除く)
・官吏、裁判官、軍人、大学教授等の特別な法的関係に基づき、公費による保障を受ける者
・EUの医療保障制度によって保障される者 等
であり、このうち、「公的医療保険への加入が認められる人」は、例えば、以下の通りとなる(即ち、公的医療保険に加入義務のない人が全員、公的医療保険への任意加入が可能というわけではない)。
・かつて公的医療保険の強制被保険者であった人は、過去5 年間に24 か月以上被保険者であった又は直近12 か月以上連続して被保険者であった者等の一定の要件を満たす場合
・初めて就労する時の所得が加入限度額を超えているために、加入義務がない者
(3)公的医療保険加入者の家族(
家族被保険者(Familienversicherte))
・被保険者の配偶者,パートナー及び子
4(一定の要件あり)であって,その所得が限度額を超えないなどの要件を満たす者(被保険者の親や祖父母は家族被保険者となることができない)。
(参考)被保険者数等の状況
「連邦保健省(BMG:Bundesministerium für Gesundheit)」のデータによれば、2016年1月の被保険者数は、公的医療保険の被保険者(本人)が5,471万人で,そのうちの4,903万人が強制被保険者(うち、年金受給者が1,680万人)、568万人が任意被保険者である。これに家族被保険者1,618万人を加えて、公的医療保険の被保険者総数は7,089万人となっており、全国民の約9割が加入する形になっている。