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東証の上場維持基準の適用が本格化~基準未達企業の対応状況~

2025年08月28日

(森下 千鶴) 株式

1――はじめに

東京証券取引所が2022年4月に新市場区分への移行と上場基準の見直しを実施してから3年が過ぎた。経過措置も2025年3月に終了し、以降の基準日から新しい上場維持基準が本格的に適用されている。同年8月時点で基準を下回る企業は約200社に達しており、今後は上場廃止基準の一つである「上場維持基準への不適合」に抵触し、上場廃止となる企業が増える可能性が高い。

本稿では、まず新しい上場維持基準と、基準を下回った場合の上場廃止までのプロセスを整理する。そのうえで、基準未達企業の対応状況を確認する。

2――新規上場基準と上場維持基準を原則共通化

2――新規上場基準と上場維持基準を原則共通化

東京証券取引所は2022年4月の市場再編で、市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに再編し、それぞれの上場維持基準を定めた(図表1)。
従来の上場基準は、新規上場基準と比較して上場廃止基準が著しく低く設定されていた。また、旧市場第一部の新規上場基準と比べて他市場からの市場変更にはより緩やかな基準が適用されていた。その結果、企業は一度上場すれば、その後は上場時の基準を多少下回ったとしても上場を維持できる構造となっており、市場の品質維持が十分ではなく、また上場後の継続的な成長を促す仕組みとはなっていなかった。
 
これに対し、新しい上場基準では「新規上場基準と上場維持基準が原則共通化」された。これにより、企業は上場時に求められる水準を上場した後も継続的に維持することが必要になる。上場維持基準を下回り、かつ一定期間のうちに回復できなければ最終的に上場廃止となる。

3――基準未達から上場廃止までのプロセス

3――基準未達から上場廃止までのプロセス

上場維持基準を下回った企業はどのような順序を経て最終的に上場廃止にいたるのか。基準日(決算期末など)において基準を満たさなかった場合でも、即座に上場廃止となるわけではない。まず原則として1年間の改善期間(ただし売買高基準に関しては6ケ月)が付与され、この間に基準を上回ることが求められる。改善期間内に基準に適合できなければ、監理銘柄を経て整理銘柄(原則として6ケ月)に指定された後、上場廃止となる。
 
上場維持基準の判定は、原則として各事業年度の末日を基準日として年に1回実施される(売買代金は毎年12月末日、売買高は毎年6月末日及び12月末日)。ただし、株主数や流通株式数、流通株式時価総額、流通株式比率の基準を下回り改善期間に入った企業は、申請により改善期間中でも基準日を指定して早期に審査を受けることが認められている1
 
図表2は3月末決算企業の日程例である。
たとえば、3月末決算企業が2025年3月末に流通株式時価総額の基準を下回った場合、2025年4月1日から2026年3月31日までが改善期間となる。その後、2026年3月末の判定基準日においてもなお基準未達であれば、同年4月以降は監理銘柄・整理銘柄に6ケ月間指定され、最終的に2026年10月1日に上場廃止となる。
 
1 東証FAQ「改善期間内に、流通株式時価総額等に係る上場維持基準の審査を受けることは可能ですか」[東証上場制度に関するFAQ、2025年4月7日掲載]

4――上場維持基準を下回っている企業は約200社

4――上場維持基準を下回っている企業は約200社

では、現在この新しい上場維持基準を下回っている企業はどの程度存在するのか。2025年8月20日時点で、上場会社3,800社のうち217社(全体の約6%)が上場維持基準を下回っていた2。市場区分別ではプライム市場67社、スタンダード市場104社、グロース市場46社とスタンダード市場で未達企業が最も多かった。
 
ここでいう基準未達企業には(1)改善期間に入った銘柄と(2)経過措置の適用により一時的に上場を維持している銘柄の双方を含んでいる。前者は、本来の上場維持基準に基づき判定基準日で未達となり所定の改善期間が付与されている企業である。後者は経過措置により緩和された基準の下で上場を続けてきた企業を指す。なお、経過措置は2025年3月で終了しており、後者の企業も次に迎える判定基準日からは本来の上場維持基準が適用され、基準を下回れば改善期間に入る。
 
図表3はこの未達企業を、市場別・項目別に整理したものである。
図表4は、市場ごとに未達企業数が多い2項目について進捗状況を集計したものである。直近の判定基準日をベースに、各企業が開示している最新の「適合計画書」等の資料をもとに整理した。縦軸を赤枠で囲った数字は各項目の上場維持基準を示し、赤色は改善期間中の銘柄、青色は経過措置適用銘柄を示している。
プライム市場およびスタンダード市場では、流通株式時価総額基準の未達企業が集中しているのに対して、グロース市場では時価総額基準に抵触する企業が目立つ。これは前二者では株式の流動性確保(株価×流通株式数)が課題となっている企業が多い一方、グロース市場では企業規模そのものが基準未達の主因となっていることを示している。さらに、東証はグロース市場の時価総額の水準を現行の「上場10年経過後から40億円以上」から「上場後5年経過時点で100億円以上」に厳格化する方針3を示しており、今後は規模要件を満たせない企業が増える可能性がある。
 
2 基準未達企業は改善期間該当銘柄と経過措置適用銘柄を合算。重複している銘柄は改善期間該当銘柄1社としてカウントした。
3 2025年9月に制度要綱公表予定。新基準適用は2030年以降とされている。

金融研究部   研究員

森下 千鶴(もりした ちづる)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴

【職歴】
 2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
 2015年 ニッセイ基礎研究所入社
 2020年4月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

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