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貿易統計25年10月-米国向け自動車輸出が持ち直し

2025年11月21日

(斎藤 太郎) 日本経済

■要旨
 
  • 25年10月の貿易収支(季節調整値)は8か月連続の赤字となったものの、赤字幅は前月の3,024億円から42億円と大幅に縮小した。
     
  • 米国向け輸出数量指数(季節調整値)は、自動車輸出の持ち直しなどから前月比2.6%の上昇となった。
     
  • ​米国向け自動車輸出(金額)は前年比▲7.5%(9月:同▲24.2%)と前月から減少幅が大きく縮小した。輸出数量が前年比▲0.9%(9月:同▲14.2%)、輸出価格が前年比▲6.6%(9月:同▲11.6%)といずれも前月から減少幅が縮小した。
     
  • ​10月の米国向け自動車輸出の持ち直しは、自動車関税が9/16に27.5%から15.0%に引き下げられことが影響している可能性はあるが、単月の動きだけで判断するのは尚早である。11月以降の動きを見極めたい。


■目次

1.貿易収支(季節調整値)の赤字幅がゼロ近傍まで縮小
2.米国向け自動車輸出が持ち直し

 

1.貿易収支(季節調整値)の赤字幅がゼロ近傍まで縮小

1.貿易収支(季節調整値)の赤字幅がゼロ近傍まで縮小

財務省が11月21日に公表した貿易統計1によると、25年10月の貿易収支は▲2,318億円の赤字となり、赤字幅は事前の市場予想(QUICK集計:▲3,090億円の赤字、当社予想は▲2,760億円の赤字)を下回った。輸出は前年比3.6%(9月:同4.2%)と前月から伸びが鈍化したが、輸入が前年比0.7%(9月:同3.3%)と輸出の伸びを下回ったため、貿易収支は前年に比べ2,682億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲1.2%(9月:同▲1.0%)、輸出価格が前年比4.9%(9月:同5.3%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比1.5%(9月:同5.8%)、輸入価格が前年比▲0.8%(9月:同▲2.6%)であった。
 
1 25年10月の貿易統計は11/19公表予定だったが、データの一部に欠落があることが判明したことから、11/21に公表が延期された。

季節調整済の貿易収支は▲42億円と8ヵ月連続の赤字となったが、9月の▲3,024億円から赤字幅が大きく縮小した。輸出が前月比0.2%、輸入が同▲3.0%となった。

25年10月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=74.4ドル(当研究所による試算値)と、8月の73.1ドルから上昇した。足もとの原油価格(ドバイ)は60ドル台半ばで推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は11月には70ドル程度まで低下することが見込まれる。

2.米国向け自動車輸出が持ち直し

2.米国向け自動車輸出が持ち直し

25年10月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比0.0%(9月:同▲13.5%)、EU向けが前年比4.9%(9月:同▲0.2%)、アジア向けが前年比▲2.4%(9月:同3.1%)、うち中国向けが前年比▲3.3%(9月:同4.2%)となった。
25年10月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比2.6%(9月:同2.4%)、EU向けが前月比1.0%(9月:同▲1.0%)、アジア向けが前月比▲2.1%(9月:同2.3%)、うち中国向けが前月比▲3.4%(9月:同7.3%)、全体では前月比▲0.5%(9月:同1.7%)となった。

中国を含むアジア向けは低調だったが、欧米向けが堅調な動きとなった。米国向けは自動車の持ち直しが大きく寄与している。
米国向け自動車輸出(金額)は前年比▲7.5%(9月:同▲24.2%)と前月から減少幅が大きく縮小した。輸出数量が前年比▲0.9%(9月:同▲14.2%)、輸出価格が前年比▲6.6%(9月:同▲11.6%)といずれも前月から減少幅が縮小した。契約通貨ベースの米国向け自動車の輸出価格は25年5月以降、前年比▲20%程度の低下となっていたが、10月には同▲13.6%までマイナス幅が縮小し、前月比では7%程度価格が引き上げられた。すでに、日本の主要自動車メーカーは米国での販売価格の引き上げを行っているが、輸出価格の引き上げによって日本車の米国車に対する価格競争力は一段と低下することが見込まれる。

10月の米国向け自動車輸出の持ち直しは、自動車関税が9/16に27.5%から15.0%に引き下げられことが影響している可能性はあるが、単月の動きだけで判断するのは尚早である。11月以降の動きを見極めたい。

自動車関税は引き下げられたものの、元々の2.5%と比べれば依然として大幅な引き上げであることに変わりはない。また、相互関税は8/7に10%から15%に引き上げられ、鉄鋼・アルミニウム、銅は50%で据え置かれている。米国の関税引き上げによる輸出への下押し圧力はしばらく残る可能性が高い。現時点では、米国向け輸出は価格競争力の低下を主因として、先行きも数量ベースでの減少傾向が続くと予想している。

3.7-9月期の外需寄与度は前期比▲0.4%程度のマイナスに

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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