だからこそ、このトレンドを長く維持するのは難しい。ラブブの人気は、セレブやインフルエンサーといった一部のハイエンドユーザーやファッション感度の高い層から始まり、彼らのようなパイオニアやトレンドドライバーによる"先取り的消費"によって火がついた。だがその後、SNSを介して一般層へと拡散し、もはや「トレンディなもの」から「みんなが知っているもの」(しかもこれはあくまでもSNSにおいてみんなが知っているだけで現実社会での認知度はそこまで高くないもの)へと変化した。つまり、トレンドに大衆性を帯び始めると、もともとの魅力――"特別であること"――が失われ始めたのだ。この現象は、まさに希少性と大衆化のジレンマである。
ラブブを"トレンド"の象徴として所有していた層にとって、その価値は新規性やプレミア、限定性によって支えられていた。だが、大衆的な人気が高まるにつれ、「みんなが欲しがるもの」になった瞬間、特定の人々が持つという特別感が失われ、そのトレンドは陳腐化していくことは容易に想像がつく。実際、セレブが今鞄にラブブをつけ始めたら、今更感が生まれるだろう。それゆえに、そのような層がラブブへの関心を失っていく中で、プレミア価格呼ばれる2次流通価格は下がっているのである。
かといって、実際にプレミア価格を下げ、転売価格を落とし、一般層でも手に入るようになれば、それは"手に入れられなかったからこそ憧れたもの"の魅力を失ってしまう。「手に入らないから欲しかった」ものが、「手に入るようになった途端に、つまらなくなる」。だから、今6万円で転売されているモデルが4万円で取引されるようになったら、ラブブを高価格出しても買いたいと思っている人が減った証左でもあり、流行が落ち着いたことの表れとなってしまう
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しかし、高額転売を維持したとしても、正規ルートでの購入が困難な場合、大衆はいつまでもこのトレンドに乗ることは難しい。前述したとおり、実際、毎日のようにSNS上ではみかけるのに、現実には街で見かける機会はほとんどない。SNSをやっていなければ、その存在すら知らない人も多い。それは手に入れるのが困難だからなのか、それともSNS上で羨望の意まなざしを受けているように見えるが、それはごくわずかな特定の層の間だけなのか・・・。つまり、ラブブのトレンドはスクリーンの中だけで燃え上がり、現実では可視化されにくいという、きわめて現代的な消費現象のため、どこかでピークアウトするのが確実なのである。
実際に、その熱量を支えていたハイエンド層の温度が、すでに下がりつつある。Bloomberg News
5によれば、中国の流通市場で、かつてのプレミアム価格を維持できなくなっており、投機的な需要が後退しているという。同記事によれば最近発売したラブブのミニチュア14体入りのブラインドボックスでは、プレミアムの付いた再販価格が発売前のピーク時から24%下落した。また、キャラクター玩具に特化した中国の転売・取引プラットフォーム、千島(Qiandao)によると、過去3日間の平均再販価格は1594元(約3万3000円)で、正規の販売価格である1106元を上回ってはいるものの、勢いは明らかに鈍化しているという。ポップマートは、再販市場での価格下落について「生産量の拡大により、より多くの消費者の手に商品が届くようになった結果」と説明している。
一方で、ポップマートの香港市場での株価は直近3営業日で約11%下落。モルガン・スタンレーのアナリストは、同社の業績基盤(ファンダメンタルズ)がやや弱含み傾向にあると指摘している。その背景には、人気商品の一つであるミニラブブが再販によってプレミアム価値を失い、投機的な期待が薄れたことが影響している可能性があるという。
6――二つのトレンドの波