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インド消費者物価(25年11月)~10月のCPI上昇率は0.25%と過去最低を更新

2025年11月13日

(斉藤 誠) アジア経済

1.総合CPIは0.25%と過去最低を更新

インド統計・計画実施省が11月12日に公表した消費者物価指数(以下、CPI)によると、2025年10月のCPI上昇率は前年同月比0.25%と、前月の同1.44%から大きく低下した(図表1)。事前の市場予想(同0.4%)1も下回り、現行のCPI統計(2012年基準)では過去最低水準を更新した。

都市部は前年比0.9%(前月:1.8%)へ低下し、農村部は▲0.3%(同1.1%)とマイナスに転じるなど、物価下押し圧力は広範な地域に及んだ。

総合インフレ率の急低下は、主に食品価格の大幅な下落によるものであり、供給改善が物価全体を押し下げる構図が一段と鮮明になっている。
 
1 Bloomberg集計の中央値。

2.食品価格は供給改善で大幅下落

食品価格は前年比▲5.0%と前月(▲2.3%)からマイナス幅が拡大し、総合インフレを大きく押し下げた(図表1)。野菜(▲27.6%)や豆類(▲16.2%)など生鮮品の大幅な下落が続いたほか、香辛料も減少が続いた(図表2)。

食品価格の急低下には、カリフ作(雨期作)の収穫本格化による供給増加や、国際的な農産品価格の落ち着きに加えて、政府が9月下旬から実施したGST税率の合理化(税率削減)の影響も一部反映したとみられる。

穀物製品(0.9%)、加工食品(4.0%)、乳製品(2.3%)などで伸び率が鈍化しており、供給改善と税負担の軽減が重なり、食品全般に下押し圧力が強まったことが確認できる。

食品全体が大幅に下落するなかで、油脂価格は前年比11.2%と、前年から二桁の伸びを維持した。インドは食用油の高い輸入依存度(60%超)を抱えることや、ルピー安に伴う輸入コストの上昇、精製・流通工程における国内コストの押し上げが影響したものとみられる。

3.燃料価格は横ばいで寄与は限定的

燃料・電力は前年比2.0%と、前月から横ばいで推移した(図表1)。原油価格は一時期の高値から落ち着きを取り戻しているが、ルピー安や国内税制の影響もあり、国内の燃料価格は大きく下がっていない。

もっとも、今回の総合インフレにおいては、食品の急落の影響が圧倒的であり、燃料の寄与は限定的であった。

4.コアインフレは4.4%と粘着性を維持

食品と燃料を除くコアCPIは前年比4.4%と、前月(4.3%)から小幅に上昇した(図表1)。

貴金属価格の高騰を背景にパーソナルケア(23.9%)が高い伸びを示したほか、教育(3.5%)も加速した。一方で、住宅(3.0%)、保健(3.9%)、娯楽(1.5%)、通信(0.9%)などは鈍化がみられた。

食品価格の急低下とは対照的に、コア物価は4%台半ばの水準が続いており、基調的なインフレ圧力は依然として根強い。今回のインフレ低下が持続的な基調の弱まりを示すものではない点には注意が必要である。

5.低インフレはRBIに慎重姿勢継続を促す

インド準備銀行(RBI)は10月の記入政策委員会(MPC)政策金利を据え置いたが(図表3)、先行きのインフレ見通しを下方修正している。今回の低インフレはその判断と整合的であり、当面は慎重な政策運営が続くとみられる。

もっとも、ルピー安の進行や外需の不透明感など下方リスクは残っており、食品主導のインフレ低下が一時的にとどまる可能性もある。

需要環境が弱い状況が続けば、12月会合以降で追加緩和が意識される余地もある。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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