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フィリピンGDP(25年7-9月期)~民間消費の鈍化で4.0%成長に減速、電子部品輸出は堅調

2025年11月07日

(斉藤 誠) アジア経済

【概要】

フィリピンの2025年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.0%1となり、前期の同5.5%から減速し、市場予想2の5.2%を下回った(図表1)。国内需要の鈍化が明確となり、4年半ぶりの低水準にとどまった。

成長をけん引してきた民間消費(同4.1%)や設備投資(同0.6%)が鈍化し、建設投資(▲0.5%)は小幅なマイナスとなった。一方で、財輸出(同11.6%)が2桁の伸びを示し、純輸出の寄与度は+1.0%ポイントとプラスに転じた。輸出の好調は、最大の輸出先である米国向けの出荷が増加したことによるもので、トランプ政権による関税政策を巡る不確実性の高まりを受け、駆け込み需要が発生したものとみられる。

産業別では、製造業(同1.2%)と建設業(同▲0.5%)が停滞した一方、サービス業(同5.5%)は堅調さを維持。特に保健・教育・公共行政などの公共サービス部門が高い伸びを示し、景気の下支え役となった。
 
1 2025年11月7日、フィリピン統計庁(PSA)が2025年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

【支出別の詳細】

民間消費は前年同期比4.1%(前期:同5.3%)と低下した(図表2)。主に食料・飲料(同4.2%)や交通(同4.4%)が鈍化、住宅・水道光熱費(同1.0%)が停滞した。

政府消費は同5.8%となり、前期の同8.7%から減速したものの、堅調な伸びが続いた。

総固定資本形成は同0.1%(前期:同3.1%)と停滞。設備投資が同0.6%と失速したほか、建設投資が▲0.5%と小幅に減少した。なお、設備投資の内訳を見ると、一般工業機械(同15.2%)が大きく増加、産業用機械(同5.3%増)が堅調に推移したものの、全体の約半分を占める輸送用機器(同▲5.3%)が急減した。

財・サービス輸出は同7.0%(前期:同4.7%)と加速した。輸出の内訳を見ると、財輸出が同11.6%の二桁成長となった一方、サービス輸出が同0.3%と小幅な増加にとどまった。また財・サービス輸入は同2.6%(前期:同3.5%)と減速した。輸入の内訳を見ると、財輸入(同1.4%)が鈍化した一方、サービス輸入(同6.4%)が加速した。その結果、純輸出は成長率寄与度が+1.0%ポイントとなり、前期の▲0.1%ポイントからプラスに転じた。

【産業別の詳細】

産業別に見ると、主に鉱工業が停滞して成長率を押し下げた(図表3)。

鉱工業は前年同期比0.7%となり、前期の同2.1%から低下した。まず製造業は同1.2%と小幅の増加にとどまった(図表4)。製造業の内訳をみると、輸送用機器(同10.6%)と食品加工(同10.4%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同0.2%減)や基礎金属(同24.8%減)、化学製品(同12.4%減)、石油製品(同7.3%減)は低迷した。また建設業(同▲0.5%)と電気・ガス・水道(同1.1%増)がそれぞれ停滞した。鉱業・採石業(同4.4%)は2四半期ぶりに増加した。

GDPの約6割を占めるサービス業は同5.5%増と、前期の同7.0%増から低下したものの、堅調な伸びを保った。内訳をみると、保健・社会福祉サービス(同12.2%)や教育(同6.8%増)、公共行政・防衛(同6.6%増)、専門・ビジネスサービス業(同6.2%増)、宿泊・飲食業(同5.7%増)、金融・保険業(同5.5%増)が堅調に拡大した一方、運輸・倉庫業(同3.3%増)や情報通信(同3.1%)は緩やかな伸びにとどまった。

第一次産業は同2.8%(前期:同7.0%)と鈍化した。サトウキビ(同42.0%)やパライ(同12.6%)などの主要作物や家禽・卵生産(同10.6%)が増加したものの、畜産(同▲1.6%)や漁業・養殖業(同2.6%)が低迷した。

【今後の注目点】

7-9月期の成長鈍化は、インフレ率の低下や利下げ効果が浸透する前の一時的な調整局面とみられる。フィリピン中央銀行(BSP)は10月に政策金利を0.25%引き下げて4.75%としており、年内にも追加緩和が検討されている(図表5)。これにより、26年にかけて個人消費の再加速が期待される。

ただし、外部環境は依然として不透明である。米国の関税政策を巡る動きや世界的な需要減速が輸出や投資の回復を抑制するリスクとなる。また、観光需要は政府の通年目標の約5割の水準にとどまり、サービス輸出の持ち直しには時間を要する見込みだ。

政府は2026年度国家予算案(総額6兆7,930億ペソ)の中で、公共インフラ整備計画「ビルド・ベター・モア」に約1兆5,600億ペソを割り当てており、公共投資の拡大が今後の景気下支え要因となる見込みである。

2025年通年の実質GDP成長率は4.5~5.0%程度にとどまる可能性があるが、中銀の金融緩和とインフラ投資が26年に向けた持続的回復の鍵を握る。

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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