3|前政権が残した「負の遺産」処理に向けた仕上げの5年
コミュニケで明示はされていないものの、第15次五カ年計画は、胡錦涛前政権が残した「負の遺産」の処理を仕上げる5年間という意味合いもありそうだ。
振り返ると、習政権が2013年に発足した後の主要な経済課題は、高度経済成長からのシフトダウンや成長がもたらしたひずみへの対応であった。政権発足後には「ニューノーマル」というスローガンを打ち出し、高度成長から中高速成長への移行と適応の必要性を印象づけた。その後、4兆元の景気対策で膨れ上がった債務に伴う金融リスクへの対応と、成長に伴う格差拡大で取り残された貧困層の貧困脱却、そして深刻化した環境汚染の防止という3つが、建党100周年(2021年)までの目標であった「小康社会」(ややゆとりのある社会)実現に向けた重要課題として位置付けられ、対策が進められた
2。
その後の展開をみると、20年までにすべてを完了するわけにはいかなかったものの、段階的に進展してきた。まず「達成」とされたのは、貧困脱却だ。22年開催の第20回党大会では、「脱貧困の堅塁攻略、小康社会の全面的な建設という歴史的任務をやり遂げた」とされた。
それに続く成果となりそうなのが、金融リスクへの対応だ。習政権はこれまで、過剰生産業種や地方政府の隠れ債務、不動産といったセクターの過剰債務問題のほか、シャドーバンキングや中小銀行の破たん懸念など金融システムの問題に順次、対策を打ってきた。これら取り組みは、目下の不動産不況に代表されるように経済への副作用をもたらした一方、不動産業の負債比率は20年をピークに着実に低下しているなど成果も上がりつつある(図表2)。こうしたなか、最近の政策動向や政府発表などをみると、党指導部・政府は、最悪期を脱したとみなし始めた節がある
3。今回のコミュニケでも、第15次五カ年計画の党原案に関して金融リスクを示唆する言及はみられず
4、目下の焦点である不動産についても、民生(国民生活)改善の文脈で「不動産の質の高い発展を推進する」と言及されたのみであった。
残る課題である環境汚染の防止については、コミュニケで「汚染防止の堅塁攻略と生態系の最適化を引き続き深く推進する」とされ、対策を継続する方針が示された。汚染防止に関しては、大気や水質、土壌など様々な分野の目標があるが、代表的なものは、20年の国連総会で習主席が宣言した「2030年までのカーボン・ピークアウト(温室効果ガス排出量の頭打ち)実現、2060年までのカーボン・ニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)の実現」だろう。コミュニケでも、「カーボン・ピークアウトの達成を積極的かつ着実に進める」とされている
5。
今後開催される第21回党大会(27年)、第22回党大会(32年)を念頭に、第13次五カ年計画から第15次五カ年計画の各期間において、貧困脱却、金融リスク対応、汚染防止について解決、あるいは解決への道筋をつけたことを、政権の主要な成果と位置付けようとしているように思われる。ただし、いずれの課題も、ある時点をもって完全に解消されるわけではない。貧困脱却、金融リスクともに対策を継続する考えは示されているが
6、再び悪化することがないか引き続き警戒が必要だ。