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「金利2%時代」に備える。Jリート市場の課題は?

2025年11月06日

(岩佐 浩人) 不動産市場・不動産市況

2025年に入り、Jリート(不動産投資信託)市場は堅調な値動きが続いている。東証REIT指数(配当除き)は4月から9月まで6カ月連続で上昇し、年初来の上昇率は16%に達した(9月末時点)。好調な不動産賃貸市況や米国での利下げ再開に加え、海外投資家やJリート公募投信が買い越しに転じるなど需給環境の改善が追い風となっている。今後は、市場全体のNAV倍率(現在0.91倍)が1倍の水準を回復できるかが注目される。
 
もっとも、中長期的には金利上昇への懸念が回復の足かせとなる。日銀は9月の金融政策決定会合で、政策金利を5会合連続で0.5%に据え置いた。一方で、基調的な物価上昇率2%の実現を目指すなか、2026年末までに50bpの追加利上げが実施され、最終到達金利(ターミナルレート)は1%に達するとの見方が市場のコンセンサスとなっている。このシナリオが現実となり、10年国債利回り(現在1.6%)やJリートの新規借入利率(現在平均1.5%)も同様に50bp上昇した場合、「金利2%時代」がいよいよ視野に入ってくる(図表1)。以下では、「金利2%時代」の到来に備え、Jリート市場が取り組むべき課題について確認したい。
「金利2%時代」がニューノーマル(新常態)となれば、Jリート市場は、(1)利払いコストの増加に伴う分配金原資の減少、(2)10年国債利回りに対するイールドスプレッドの縮小、という2つの課題に直面し、ビジネスモデルの再考を迫られることになる。
 
図表2は、Jリートの財務データを参考に、一定の前提条件(減価償却費率1%、運用コスト率0.5%、レバレッジ比率50%、借入利率2%、10年国債利回り2%、NAV倍率1倍)のもとで、不動産利回り(NOI利回り、時価ベース)と分配金利回り、およびイールドスプレッドの関係を示している。
 
不動産利回りが現在の4%で横ばいの場合、イールドスプレッド(分配金利回り3%-10年国債利回り2%)は1%まで縮小する。また、イールドスプレッドを足もとの水準である3%に維持するには、不動産の収益力を高め、利回りを4%から5%へ引き上げなければならない。
このように「金利2%時代」では、イールドスプレッドについて従来の3%台ではなく、1%台の水準を投資家に受け入れてもらう環境整備が求められる。そのためには、不動産賃料の引き上げや自己投資口の取得などを通じて、分配金の持続的な成長期待を高めること。加えて、Jリートの商品特性を広く訴求し多様な投資家の参入を促すことで、厚みのある投資家層を形成することが不可欠である。こうした環境整備が進まなければ、投資口価格の調整によりNAV倍率が恒常的に1倍を下回り、Jリート市場の持続的成長が困難になるおそれがある。
 
幸い、Jリート各社はこれまでの低金利局面で長期固定金利による資金調達を進めており、既存の平均借入利率は0.8%と低い水準にとどまっている。今後のリファイナンスによって借入利率が2%に到達するまでには、一定の時間的猶予が確保されている。また、良質で分散された不動産ポートフォリオに蓄積された含み益は約6兆円に拡大しており、これは年間分配金額の8倍に相当する。この含み益を活用することで、借入利率上昇の影響を和らげつつ、柔軟な分配金政策の実施が可能になる。
 
現在の低い借入利率や潤沢な不動産含み益といった強固な経営基盤を活かしつつ、今後は分配金の成長期待を高めるとともに、投資家層の拡大が求められる。こうした取り組みを通じて、米国リート市場並みに低いリスクプレミアムが許容される市場環境が育まれることに期待したい。

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人(いわさ ひろと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 2005年 ニッセイ基礎研究所
 2019年4月より現職

【加入団体等】
 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
 ・日本証券アナリスト協会検定会員

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