2|IORPIIの修正方向について
〇オルタナティブ資産への投資の促進
オルタナティブ資産は、投資ポートフォリオのリスク・リターン特性を改善する可能性を秘めているが、不透明な部分が多く、その運用には高度な専門知識が必要である。
オルタナティブ資産とは評価の不確実性、流動性、複雑性、隠れたレバレッジなどのいずれかの特性をもつ資産、とここでは定義しておく。具体的には、未公開株式、(信用リスクの高い)貸付債権、非上場不動産、インフラ投資、ヘッジファンド、コモディティ、ストラクチャードアセットなどを想定している。
規模の大きい年金基金ほどオルタナティブ資産への投資比率が高い傾向がある。投資先の地域をみると、オルタナティブ投資のうち、北米が60%、欧州は20%強である。IORPII指令においては、オルタナティブ資産への投資は禁じられていないが、プルーデントパーソンルールの遵守が義務付けられている。また各国において、健全性の観点から正当な理由がある場合に限り、投資量を制限することができるとされている。
年金基金によるオルタナティブ投資への投資機会を促進するためには、プルーデントパーソンルールに加え、保険におけるソルベンシーII指令の考え方などに倣って、年金基金においてもよりリスクに応じたアプローチを追加するように、IORPII指令を改正することが考えられる。
〇規模拡大にむけて
年金基金セクターの規模拡大を支援することは、年金ギャップの解消に貢献する可能性がある。規模拡大には、高い年金加入率、拠出の継続性、プール投資などが寄与し、これらはコスト削減、資本レバレッジの向上、年金資産総額の増加につながる。集中管理や自動化システムの導入も規模拡大に寄与し、業務効率化やコスト削減を通じて、年金基金セクター全体の生産性向上につながる。
またIORPII指令のさらなる厳格化は、それを満たせなくなった年金基金を解散・統合させ、規模の拡大につながる可能性がある。もちろん、規模の拡大だけでは効率性の向上が保証されるわけではないため、適正な市場環境や規制整備も必要である。
〇年金基金の定義等を明確にすることによる、セクター全体の成長促進
年金基金の定義、言い換えると、「どんな契約条項をもつ年金制度運営機関がIORPII指令の対象となるのか」という点が、各国の解釈に任されている実態がある。このことにより、無年金の自営業者や非正規労働者の職業年金への加入が制限されている国がある。各国の年金制度、社会法や労働法を尊重しながらも、退職給付を提供するという本来の目的に沿って、すべての労働者が年金貯蓄制度を利用できるように、年金基金の定義や規制対象範囲をより明確にする必要がある。
〇監督強化
IORPII指令は、EU全体で加入者と年金受給者を保護するため、リスクに基づく将来を見据えたアプローチに関する規定を導入した。しかし監督当局がそのことに対応できる十分な資源、専門能力、権限を有していないために、十分な水準の保護が行き届いていない。各国の監督当局には、説明責任や透明性の確保といった理念が要求されるとともに、それを実現できるような財務、業務、人事上の権限や独立性も必要である。
〇確定拠出年金制度加入者と年金受給者の保護強化
資産運用機能(資産運用リスクの負担)と、財産管理(退職所得の財産権の保護)の間の利益相反をなくし、年金制度への信頼を高め、年金制度加入者と年金受給者の保護を強化する。
〇取り崩し段階における情報の透明性の向上
現在、退職前(つまり財源積立期間)などの開示情報は規定されているが、積立金取り崩し場面における開示情報が規定されていない。退職後の選択肢と、リスクおよびその軽減策を説明する積立金取り崩しガイド(寿命動向、インフレ動向、年金額、引き出し方法、流動性・投資・税務リスクなど)や、関連システムツールの提供を検討する必要がある。
〇クロスボーダー手続きの簡素化
国ごとの年金制度や関連法の多様性によって、複数の国をまたぐ年金基金の制度は、複雑であったり、不均質なものになったりしてしまっている。資金の移転規則、IORPII指令の適用範囲の再構成、事務的な通知のあり方などの課題に取り組んでいく必要がある。
3――おわりに