日銀短観(9月調査)~トランプ関税の影響は依然限定的、利上げ路線をサポートするも、決め手にはならず

2025年10月01日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

4.売上・利益計画:2025年度の利益計画はやや慎重

2025年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比1.7%増(前回は1.4%増)、経常利益が同4.8減(前回は5.7%減)となった。

例年、経常利益計画は初回の 3 月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6 月調査で比較対象となる前年度分の上方修正などを受けて、さらに伸び率がやや下方修正された後は、景気が悪化していない限り、上方修正が続く傾向が強い。

今回も同様のパターンとなり、上期業績の上振れを受けて、もともとの保守的ぎみであった想定をやや上方修正する動きが出たと考えられる。

ただし、例年の9月調査と比べると今回の上方修正幅は小幅に留まっており、加工業種(前年比11.6%減、前回比0.8%pt減)の下方修正が主因となっている。対米関税の高止まりが決まったこと受けて、自動車等で先行きの収益減を織り込む動きが強まったと推測される。
 
なお、2025年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は145.68円(上期145.94円、下期145.41円)と、前回の145.72円からわずかに円高方向に修正されている。前回調査以降に円相場はやや円安に振れており、上期平均レートが147円台半ばにあることを考えると、円安方向への修正が入ってもおかしくなかった。先行きの不透明感が強いなか、前提をやや保守的に置いたままにしている輸出企業が存在するためとみられる。

5.設備・雇用

5.設備・雇用:設備投資計画は強めの動き、人手不足感は若干強まる

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から横ばいの▲2となった。設備の需給は非製造業を中心に若干不足気味ながら、概ね均衡圏での推移が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲36となった。大企業では横ばいに留まったが、中小企業で2ポイント低下した。同DIのマイナス幅は依然として大幅で、人手不足感の極めて強い状況が続いている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用人員判断DIが▲40とそれぞれ、2ポイント、4ポイントの低下が見込まれている。とりわけ中小企業では、雇用人員判断DIの低下幅が4ポイントと大きい。中小企業では人材確保に対する懸念が強いことが、先行きの人手不足感の高まりという形で表れているものとみられる。
2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比8.4%増と前回調査時点の6.7%増から上方修正された。

例年、9月調査では年度計画が固まってくることで、中小企業を中心に投資額が上乗せされる傾向が強いが、今回の上方修正幅は、例年4と比べてもやや大きめだ。引き続き企業収益が堅調を維持する中で、人手不足を背景とする省力化や脱炭素、DXの推進など構造的な課題への対処に向けた投資需要がけん引したとみられる。また、7月に関税の水準が一旦定まったことで、一部で投資計画を具体化する動きが出た可能性もある。
 
2025年度設備投資計画(全規模全産業で前年比8.4%増)は市場予想(QUICK 集計7.3%増、当社予想は7.2%増)を上回る結果だった。
 
2025年度のソフトウェア投資計画(全規模全産業)は前年比12.9%増と前回時点の12.4%増から小幅に上方修正された。中小企業を中心に省力化等に向けてソフトウェア投資を積極的に進める姿勢が維持されている。
 
4 直近10年間(2015~24年度)における9月調査での修正幅は平均で+1.0%ポイント

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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