欧州委員会は調査の結果、欧州地域において、上記i)とii)の存在する市場(媒体社向け広告サーバー市場、広告主向け購入ツール市場)でGoogleが支配的であると判断した。そして欧州委員会は2014年から現在までGoogleが以下の2点において支配的地位を濫用したとして欧州機能条約102条(競争法に該当)違反であると判断した。
(1)広告主向け購入ツールであるGoogle AdsとDV360を通じてAdXを優遇した。具体的には、Google Ads等からの発注先をAdXのみとすることで、AdXを魅力的にすることを通じて他の広告取引所を排除した。
(2)媒体社向け広告サーバーであるDFPによりAdXを優遇した。具体的に、AdXに競合する広告取引所で提示される最高価格をDFPがAdXに事前通知する
1ことで他の広告取引所を排除した。
これらの行為の結果、故意にAdXに競争上の優位性を与え、競合する広告取引所の事業を排除したと欧州委員会は判断した。これを受け、上述の通り、欧州委員会はGoogleに是正措置を策定するよう求めた。なお、欧州委員会はGoogleによる一部サービスの分割(divestment by Google part of its services)が適当であると暫定的な見解を示したとのことである。
本事案で注目されるのは主に3点ある。
一つ目はGoogleのオンライン広告サービス全般を対象とする市場における独占を認めたところにある。米国では一般検索サービス市場と一般検索テキスト広告市場におけるGoogleの独占は認めたが、これらよりも広い市場であるオンライン広告サービス全般におけるGoogleの独占は認めなかった。この点、詳細は先のレポート
2を参照願いたいが、たとえば一般検索テキスト広告と、オンライン広告の一種であるオンラインディスプレイ広告
3とでは広告主にとって代替性がなく、同一市場ではないとの判断が示されている。欧州ではより幅広い市場として判断されているわけだが、米国の裁判例を踏まえれば争点となる可能性が高い。
二つ目は、本事案がデジタル市場法違反ではなく、欧州競争法違反とされたところである。デジタル市場法は欧州競争法の予防規定として制定されたが、オンライン広告サービスについては広告主に手数料開示を求めるとともに、媒体社に報酬開示を行うことを求めているにとどまる(5条9項、10項)
4。オンライン広告サービスそのものの支配・排除行為を予防する条文は存在しないため、欧州競争法を適用したものと考えられる。
三つ目は欧州委員会がサービスの分割を暫定的見解としても求めている点である。同様にGoogleのサービス分割が議論となっていた米国の事例では、裁判所はサービスの分割まで求めることはせず、情報の外部提供を求めるにとどまった
5。過去にマイクロソフトによるWindows(OS)とInternet Explorer(ウェブ閲覧ソフト)の抱き合わせが行われた時にも事業分離が訴訟上主張されたことがある。その際は事業分離に至らず、和解で決着した
6。サービス分離あるいは事業分離は適用のハードルが高い。Googleにとっても受け入れは困難である。
上記注目点を鑑みるにGoogleの立場からすれば簡単に受諾することは想定しにくい。今後、訴訟に移行すると思われるが、引き続き動向を注目していきたい。