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景気ウォッチャー調査2025年8月~景気の現状判断DIは4ヵ月連続の上昇~

2025年09月09日

(佐藤 雅之) 日本経済

1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.5ポイント上昇の46.7

内閣府が9月8日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年8月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.5ポイント上昇の46.7と、4ヵ月連続の上昇となった。

地域別では、全国12地域中、7地域で上昇、5地域で低下した。最も上昇幅が大きかったのは東海(前月差3.5ポイント)で、最も低下幅が大きかったのは沖縄(同▲1.6ポイント)であった。自動車への関税が27.5%から15%に引き下げられたことが追い風となり、自動車関連産業の盛んな東海の景気の現状判断DIは大きく上昇したとみられる。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差1.5ポイント、企業動向関連が同2.5ポイント、雇用関連が同▲0.3ポイントであった。内閣府は基調判断を「景気は、持ち直しの動きがみられる」と据え置いた。

2.ウォッチャーのコメントでは猛暑の影響はプラスとマイナスの両方

家計動向関連では、住宅関連(前月差▲1.2ポイント)は低下したものの、飲食関連(同2.8ポイント)やサービス関連(同1.7ポイント)、小売関連(同1.5ポイント)は上昇した。住宅に関するコメントをみると、「生活必需品が値上がりして生活に負担が重くのしかかっているため、住宅購入資金に回す余裕がなくなっている(東海・住宅販売会社)」や「金利上昇により住宅ローンが組みにくくなっている。また、建築費高騰のため予算をオーバーし、購入に踏み切れない客が増えており、成約に至らないことが多い(北関東・住宅販売会社)」などがあった。一方、飲食やサービスに関するコメントをみると、「物価高に慣れてきているようで客単価が上がっている。夏休み期間で、親が子供の欲しい物を制限することなく買ってあげている様子がみられた。少し景気が良くなっている(東北・観光名所)」や「例年の夏休みよりも、国内外共に来客数が非常に多く、大阪・関西万博の効果をここへきて実感している。特に子供連れの家族客が目立ち、雑貨や食料品、レストラン街の売上が好調である(近畿・百貨店)」など、ポジティブなコメントがみられた。

企業動向関連では、製造業(前月差2.0ポイント)、非製造業(同2.7ポイント)いずれも上昇した。コメントをみると、「米国の関税が決定したことで、経費の圧迫要因となるものの、先の見通しが立てられる状況となり、取引先からの引き合いも増えつつある(九州・電気機械器具製造業)」など、7月下旬に日米関税交渉の妥結が発表されてから1ヵ月経ち、先行きを見通せるようになってきたようだ。関税以外のコメントでは、「ここ2か月と比べると、インバウンドの需要が回復していることで売上が伸びている(北海道・食料品製造業)」など、インバウンド需要に関してもポジティブなコメントがみられた。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。「猛暑」という単語は、景況感が改善したと判断した回答者、不変と判断した回答者、悪化したと判断した回答者すべてに含まれていることが分かる。景況感が改善したと判断した回答者のコメントには、インバウンド、単価といった単語が多く含まれていることが読み取れる。
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起
ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差0.2ポイント上昇の47.5

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差0.2ポイント上昇の47.5となった。先行き判断DIの内訳をみると、雇用関連(前月差▲2.4ポイント)は低下したが、家計動向関連(同0.3ポイント)、企業動向関連(同1.2ポイント)のDIは上昇した。

家計動向関連では、「依然として物価が高く、消費意欲は低迷することが予想される。一部富裕層の動きは見られるものの、中間層の消費行動は慎重である(北関東・百貨店)」や「長期気象予報ではこの暑さは11月まで続き、加えて、物価高騰で一般消費者の生活が厳しくなっていることから外出を控えている。そのため、来客数が減少し、売上も悪くなっており、今後も回復する見込みの要素がない(九州・商店街)」、「物価の上昇による節約により、1人当たり買上点数が前年を下回る状況が続く(中国・スーパー)」など、物価高による影響で消費者が節約志向になっているとのコメントがみられた。これに対し、「先の予約状況は堅調に進捗している。加えて物価高や値上げ等に慣れてきたのか、以前よりも消費力が高い感じにあり、期待が持てる。現在の人の流れや雰囲気が続いた状態で、秋の行楽シーズンから年末へと向かえば、業績が非常に伸長することが予測できる(甲信越・都市型ホテル)」や「今後は猛暑が和らぎ、涼しくなることで、秋の行楽シーズンに向けた旅行需要の高まりが期待される。また、最大で9連休となる年末年始についても、旅行業界にとってはプラスの影響が大きいと予想される(近畿・旅行代理店)」など、秋の行楽シーズンや年末年始に向けた需要拡大への期待が高まっている。

雇用関連では、「自動車関連企業において、米国の関税による売上への影響を懸念する声もある。それによって、2027 年の新卒採用数は減少する可能性もある(中国・求人情報誌制作会社)」など、関税政策が雇用にマイナスの影響を与えるかもしれないとのコメントがみられた。
景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が改善すると判断した回答者のコメントには、秋、イベントといった単語が多く含まれていることが読み取れる。一方、景況感が悪化すると判断した回答者のコメントには、最低賃金、引上げといった単語が多く含まれていることが読み取れる。例えば、「10 月からは電気料金の値上げ、最低賃金の大幅アップなどがあり、経営環境は厳しさが増すとみている(東北・スーパー)」や「最低賃金の引上げによる人件費の更なる増加に対して、生産性向上へ向けた戦略が整っておらず、企業の利益を削って人件費を確保する傾向に動く(東海・人材派遣業)」などのコメントがみられた。
2025年8月調査の結果は、景況感は現状、先行きともに改善していることを示すものであり、その主因は、7月下旬に日米関税交渉の妥結が発表されたことや、好調な夏休みシーズンの観光需要であった。今後は、秋の行楽シーズンや年末年始に向けた需要拡大への期待が高まる。

経済研究部   研究員

佐藤 雅之(さとう まさゆき)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済

経歴

【職歴】
 2020年4月 株式会社横浜銀行
 2024年9月 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員

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