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欧州大手保険グループの2025年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

2025年09月02日

(中村 亮一) 保険計理

3|Generali
(1) SCR比率の推移
2025年上期末のSCR比率は、2024年末の210%から2%ポイント上昇して、212%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益の計上による資本形成で+9%ポイント(生命保険と損害保険の両セグメントからの貢献による)

・市場の変動等で+1%ポイント、そのうち、経済的差異は+4%ポイント(主にスプレッドの縮小と株式市場の好調による)、非経済的差異は▲3%ポイント(計画的なSAA(戦略的資産配分)リスク調整最適化に伴うSCRの増加及び保険事業の有機的成長による)

・配当等の資本移動で▲5%ポイント(5億ユーロの自社株買いプログラムの実施と当期の配当を反映しており、一部は6月に発行された5億ユーロの劣後債による償還資金調達で相殺された)

・規制変更等により▲2%ポイント(これは、EIOPA(欧州保険年金監督局)のリスクフリーレートのパラメータ設定に関する変更及びイタリアにおけるユニットリンク準備金に対する印紙税の変更による)

・M&Aで▲1%ポイント(投資会社のIntermonteの買収及び中国損害保険事業における少数株主の取得による)

なお、2025年下半期のソルベンシーII比率は、配当を除く資本生成に加えて、以下の要因が反映される見込みとしている。(1)(後述の)MGG買収の完了見込み (▲2%ポイント)、(2)11月に既に再融資済みの劣後債の償還(▲2%ポイント)、(3)SAA最適化の実施に伴うSCRの増加及び有機的事業成長により、▲2~▲3%ポイントの影響、(4)2025年第3四半期に、Liberty統合の一環としてスペインにおける内部モデル適用の中止により▲4%ポイントの一時的な影響(ただし、これは2027年に回復する見込み)。
また、自己資本とSCRの推移は、以下の図表の通りとなっている。

自己資本は、2024年末の491億ユーロから9億ユーロ増加して、2025年上期末に500億ユーロとなった。一方で、SCRは、2024年末の234億ユーロから1億ユーロ増加して、2025年上期末に235億ユーロとなった。

なお、通常の資本形成により、SCRを超過する自己資本は23億ユーロ増加しているが、このうち生命保険事業で17億ユーロ、損害保険事業で10億ユーロ、その他で▲4億ユーロとなっている。
(2) 感応度の推移
Generaliは、感応度について、半期ベースの数値は開示していない。2024年末の数値によれば、以下の通りとなっている。

Generaliは、過去数年間において、特に、(1)生命保険における軽資本商品のウェイトの拡大、(2)損害保険、ユニットリンク、保障商品を通じての分散化の促進、(3)段階的なデュレーションの短期化によるBTP(イタリア国債)のウェイトの引き下げ、(4)資産・負債マッチングに関する規律のさらなる強化、を通じて、ソルベンシーII比率のボラティリティを引き下げてきた。

これにより、例えば金利に対する感応度は、2021年末から2022年末にかけて大きく低下し、2023年末もさらに低下していた。ところが、2024 年末は、金利低下と生命保険の新契約の大幅な増加により、わずかに上昇した。ただし、それでも2021年末までと比較すると、大きく減少している。

また、社債スプレッドの拡大による影響は、2019年から2021年末まではプラスとなっていたが、2022年からはマイナスとなっており、2024年末は▲2%ポイントとなった。

イタリア国債のBTPスプレッド+100bpsによる影響は、2021年までの3年間は二桁のマイナスと大きなものになっていたが、2022年末は▲5%ポイント、2023年末は▲6%ポイント、2024年末は▲5%ポイントとなっている。なお、2022年のBTPスプレッド感応度においては、カントリー・ボラティリティ調整10が発動されたが、この発動がなければ、2022年のBTPスプレッド感応度+100bpsは▲8%ポイントであった。2023年及び2024年のBTPスプレッド感応度+100 bpsについては、カントリー・ボラティリティ調整は発動されていない。

株式に対する感応度は25%の変動で数%ポイントと安定している。
 
10 国固有の参照ポートフォリオのリスク修正スプレッドがリスクフリーレートを少なくとも100 bps上回り、通貨固有の参照ポートフォリオのスプレッドの2倍を超える場合、通貨スプレッドの2倍を超える国内スプレッドの超過額の65% に相当する国固有のボラティリティ調整が追加される。
(3) トピック
Generaliの2025年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2025年1月7日に、3シリーズの劣後債の買い戻しと「グリーン」形式のユーロ建て劣後債の新規発行を発表した。「グリーン」形式で発行される新しいTier 2債の総額は5億ユーロを超えない。これは、債務を積極的に管理し、規制資本構造を最適化するというGeneraliのアプローチに沿ったものである。

同じく、2025年1月7日に、サステナビリティ債券フレームワークに従い、「グリーン」形式で2035年満期のユーロ建てTier 2債を発行した、と発表した。これは、8回目のグリーンボンド発行であった。

2025年1月17日に、Generali Investmentsと運用資産60億ドル超の米国の民間直接融資投資会社であるMGG Investment Group(MGG)は、Generali Investmentsの完全子会社である Conning & CompanyがMGGとその関連会社の過半数株式を取得する正式契約を締結したことを発表した。取引は、慣例的な承認と取引完了条件に従い、2025年に完了する予定である。Generali GroupのソルベンシーII比率への影響は、約▲2%ポイントと推定されている。

2025年1月21日に、GeneraliとBPCE11は、それぞれの資産運用会社である Generali Investments Holding (GIH)とNatixis Investment Managers(Natixis IM)の間で合弁会社を設立するための拘束力のない覚書に署名したことを発表した。BPCE(Natixis IM を通じて) とGIHは、バランスの取れたガバナンスと管理権を持ち、統合後の事業のそれぞれ50%を所有する。合弁会社は、運用資産が1.9兆ユーロで、運用資産額で世界第9位、収益41億ユーロで、欧州の資産運用リーダーである、世界有数の大手企業が誕生することになる。また、運用資産残高で世界第1位の保険資産管理会社となる。

2025年3月25日に、Generali China Insurance Company Limited (GCI)の100%株式の買収を完了したと発表した。これによるGeneraliグループのソルベンシーII比率への影響は約▲1%ポイントとなる。

 2025年5月23日に、Generali Life Assurance Philippines, Inc.の100%株式のThe Insular Life Assurance Company, Ltd.への売却を完了したと発表した。

2025年5月29日に、Generaliは、アイルランドに拠点を置くマルチアレンジメント特別目的会社であるLion Re DACと、複数年にわたる担保付再保険契約を締結し、この契約により、4年間にわたり、欧州における暴風及びイタリアにおける地震によるグループの損失を補償すると発表した。Lion Re DACは、再保険契約に基づく債務の資金調達のため、総額2億ユーロの2つのクラスからなるシリーズ2025-1債券を発行した。これにより、Generaliは独自のESG機能を備えたカタストロフィ債のスポンサーとしてILS(保険リンク証券)市場に復帰することになる。

2025年6月11日に、総額5億ユーロの劣後債(2036年6月満期のユーロ建てTier 2債)発行に成功したと発表した。

2025年6月27日に、インドにおける新たな合弁パートナーがインド中央銀行(CBI)となることを発表した。Generaliが合弁会社の74%の株式を保有し、インド中央銀行が最大26%を保有する。

2025年8月6日に、総額最大5億ユーロの自社株買いプログラムを開始する予定だと発表した。自社株買いは2025年8月7日に開始され、2025年12月末までに終了する。
 
11 BPCEは、二つの協同組織金融機関グループBanque PopulaireとCaisse d'Epargneの系統中央機関が2009年に合併して成立した金融グループ
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