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欧州大手保険グループの2025年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

2025年09月02日

(中村 亮一) 保険計理

(2) 感応度の推移
2025年上期末においては、2024年末に比べて、ユーロソブリンスプレッドによる感応度や株式市場の下落による感応度が低下したが、基本的にはあまり変化はなかった。
2020年末から、ユーロソブリンスプレッド(ユーロソブリン債とユーロスワップレートの差)とクレジット削減(社債の20%が3ノッチ格下げされる前提)に対する感応度が新たに開示されており、2025年上期末には、前者が+50bpsで▲7%ポイント、後者が▲4%ポイントとなっている。さらに、2022年末から、インフレーションスワップ4カーブ+50bpsに対する感応度が開示され、2025年上期末には▲5%ポイントとなっている。
 
4 インフレーションスワップは、一方の当事者が固定支払いと引き換えにインフレリスクを取引相手に移転する取引
(3) トピック
AXAの2025年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2025年2月27日に、12億ユーロを上限とする自社株買いプログラムを発表した。この自社株買いプログラムによって取得した全ての株式を消却する予定である。

2025年4月1日に、イタリアに拠点を置く、主に個人向けの損害保険会社であるNobis Groupの買収を完了したと発表した。買収の初期対価は4.23億ユーロとなり、最大0.55億ユーロのアーンアウト(Earn out)5の可能性がある。この取引により、2025年第2四半期のAXAグループのソルベンシーII比率は▲1%ポイントの影響を受けることになる。

2025年5月29日に、10億ユーロの制限付きTier 1債と10億ユーロのTier 2債の発行を発表した。調達資金はAXAグループの未払債務の一部借り換えを含む、事業全般の目的に充当される。

2025年6月3日に、投資サービスプロバイダーと自社株買い契約を締結し、この契約に基づき、最大7.246億ユーロを上限とする自社株買いプログラムを実施すると発表した。自社株の買い戻しは2025年6月3日から始まり、遅くとも2025年7月11日まで行われる。買い戻された株式は消却されるか、又は関連する株式報酬制度の受益者に引き渡されることになる。

2025年7月1日に、AXA Investment Managers(AXA IM)をBNP Paribasに51億ユーロの現金で売却したことを発表した。また、同じくSelectをAXA IMに3億ユーロで売却し、これにより取引総額は54億ユーロとなった。AXA IMとBNP Paribasの統合により、運用資産総額1.5兆ユーロを誇る欧州有数の資産運用会社が誕生する。なお、2024年8月2日の発表によれば、この取引の完了に伴い、AXAの年間基礎利益が約4億ユーロ減少し、一時的な純利益が22億ユーロ増加すると想定され、またこの取引とそれに伴う自社株買いがソルベンシーII比率に与える影響は中立的であるとしている。

2025年7月2日に、AXA IMの売却に伴い、投資サービスプロバイダーと最大38億ユーロの自社株買い契約を締結したと発表した。自社株の買戻しは2025年7月2日から開始され、遅くとも2026年2月26日までに終了する。これに基づいて買い戻した全ての株式を段階的に消却する予定としている。

2025年8月1日に、保険料収入12億ユーロを有するイタリアの直販保険会社Primaの買収を発表した。Primaはイタリアの直販チャネルのリーダーとして台頭し、自動車リテール市場で約10%の市場シェアでトップの地位を獲得している。Primaの買収により、AXAは自動車事業の規模をほぼ倍増させ、イタリアにおける地位を強化することが期待されている。この取引は、現在第三者保険会社が引き受けている事業の再獲得を含め、AXAグループのソルベンシーII比率に▲6%ポイントの影響をもたらすと予想されている。
 
5 M&Aの対価の一部を、実行後の一定期間内に、M&A対象会社の業績指標等の事前に合意された目標の達成状況に応じて支払う規定
2|Allianz
(1) SCR比率の推移
2025年上期末のSCR比率は、2024年末の209%から横這いだった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+13%ポイント(税引き前で+18%ポイント、税及び配当で▲6%ポイント)

・市場の影響は▲1%ポイント(不利な為替が有利な株式市場とユーロ金利やクレジットスプレッドの状況で相殺された)

・経営行動及び資本管理の影響は▲11%ポイント(配当で▲6.2%ポイント、20億ユーロの自社株買いで▲4.4%ポイント、その他の主として劣後債の償還によるマイナスはUniCredit Allianz Vita S.p.Aの売却によるプラスでほぼ相殺された)

・規制/モデル変更による影響は、0%ポイント

2024年決算発表時に、2025年に予想される影響として、(1)少なくとも+20%ポイントの営業資本創出(税引き後)、(2)想定されているSanlam6(ジョイントベンチャーの持分増加)とSconset Re7の取引からのネットの影響は重要でない、(3)発表済みの20億ユーロの自社株買いにより▲4%ポイント、が挙げられていた。
また、自己資本とSCRの推移は、以下の図表の通りとなっている。

自己資本は、2024年末の932億ユーロから2025年上期末の919億ユーロに、13億ユーロ減少した。着実な営業利益の積み上げによる影響で70億ユーロ(損害保険が34億ユーロ、生命保険が30億ユーロ等)のプラスとなったものの、市場の影響による15億ユーロのマイナスと配当支払や自社株買い等での68億ユーロのマイナスの影響があったことによる。

一方で、SCRは、2024年末の447億ユーロから2025年上期末の439億ユーロに、8億ユーロ減少した。ビジネス進展での8億ユーロのプラスの影響があったものの、市場の影響による5億ユーロのマイナスに加えて、経営行動による9億ユーロのマイナスの影響があったことによる。
 
6 Sanlamはアフリカ最大のノンバンク金融サービスプロバイダーで、Allianzは2023年9月に、アフリカの27カ国に拠点を置く汎アフリカの大手ノンバンク金融サービス会社であるSanlamAllianzを、Sanlamとの合弁会社として設立している。
7 Sconset Reはバミューダに拠点を置く独立した戦略的再保険プラットフォームで、固定インデックス年金商品のリスクを引き受けることに特化している。
(2) 感応度の推移
全体として、感応度は大きくは変化していない。

国債に対する信用スプレッドによる感応度は、2020年末が高かったが、2021年末、2022年末と低下、2023年末以降は、ほぼ5%ポイント程度で推移している。また、株式の感応度は、2022年末まで低下傾向にあった中、2023年末に若干上昇したが、2024年末には再び若干低下して12%ポイントとなり、2025年上期末も13%ポイントとなっている。

なお、統合ストレスシナリオによる場合の感応度は、個々の感応度の合計に比べて、クロス効果により追加の▲2%ポイント(2024年末▲3%ポイント、2023年末▲2%ポイント、2022年末▲1%ポイント)の影響があるとしている。
(3) トピック
Allianzの2025年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2025年2月27日に、Allianz SEは、最大20億ユーロ規模の自社株買いプログラムを発表した。このプログラムは2025年3月に開始され、遅くとも2025年12月末までに完了する。Allianz SEは買い戻した株式を全て消却する。

2025年3月17日に、インドの損害保険・生命保険合弁事業の26%の株式をBajaj Groupに総額約26億ユーロで売却する、と発表した。これによるIFRSベースの予想利益は約13億ユーロで、ソルベンシーIIへの影響は+6~7%ポイントとしている。

2025年3月19日に、Allianz、BlackRock、T&D HoldingsがViridium Group8に投資し、GeneraliとHannover Reはそのまま投資を続け、コンソーシアムに参加する、Cinvenは10年以上の投資期間を経て撤退する、と発表された。取引額は約35億ユーロで、所有権はコンソーシアムのメンバーと金融投資家に分配され、T&D Holdingsが最大のシェアを取得する9。なお、取引は、関係規制当局の承認等を経て、2025年後半に完了する予定としている。また、このコンソーシアムは、他の長期金融投資家の参加も可能な構造になっている。

2025年4月1日に、Allianz SEは、12.5億ユーロの劣後債(2035年までは4.431%で、その後は変動金利)の発行と、2025年に償還可能な15億ユーロの劣後債(2.241%)の一部買い戻しを完了したと発表した。

2025年5月23日に、Allianz SEは、15億ユーロの2.241%劣後固定変動利付債の償還を要求した。

2025年6月27日に、Allianz SEは、イタリアにおけるUniCreditグループとの生命保険合弁会社であるUniCredit Allianz Vitaの50%の株式のUniCreditへの約8億ユーロでの売却を完了したと発表した。この売却により約2億ユーロの利益が計上され、AllianzグループのソルベンシーII比率への影響は+約1%ポイントと見込まれている。

2025年8月26日に、Allianz SEは、12.5億ドルの制限付きTier1債の発行を完了したと発表した。
 
8 Viridium Groupは、ドイツのクローズドブック生命保険統合会社で、英国のPE会社Cinven、ドイツの再保険会社Hannover Re、イタリアの保険会社Generaliの合弁会社である。運用資産は670億ユーロ、340万人の保険契約者にサービスを提供している。ドイツの保険監督官庁であるBaFinは、2023年にイタリアでCinven所有のEurovitaが破綻したことを受けて、Viridium Group が問題を抱えた場合にCinvenが支援しないのではないかとの懸念から、2024年にViridium GroupによるドイツのZurich Life Legacyの買収を認めなかった。
9 T&D Holdingsは、2025年3月21日に、子会社のT&D United Capital(TDUC)のViridium Groupへの出資についてプレス発表をして、本取引完了により、TDUCはコンソーシアム投資家の中で最大となる 29.9%の持分を取得し、ViridiumがT&D Groupの持分法適用関連会社となる、ことを公表している。
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