2025年2月5日(以下、日付はいずれも2025年)、台湾の電子部品メーカーであるヤゲオ(YAGEO)が株式会社芝浦電子を完全子会社化することを目的とした株式の公開買付けを1株当たり5400円で行うことを公表した
1。公開買付けとは不特定多数の株主に対して取引市場外で買付けの勧誘を行う際の手続き(金融商品取引法(以下、「法」)27条の2第6項)で、開示規制や手続規制がある。
これに対して、芝浦電子はホワイトナイトを探し、その結果、4月10日付けでミネベアミツミ株式会社が一定の条件が満たされることを条件に、芝浦電子に対して公開買付けを1株当たり4500円で行うことを公表した
2。ホワイトナイトとは敵対的な買収を仕掛けられた会社が、敵対的買収を回避するため、友好的な買収をしてもらう企業を指す言葉である。
芝浦電子は、同日付けでミネベアミツミの公開買付けに賛同し、株主にも応募するよう推奨する意見を公表した
3。あわせて、同日付けで芝浦電子はヤゲオの公開買付けに反対し、株主にも応募しないよう意見を表明した
4。なお、ヤゲオの提案に対して芝浦電子が反対しているのは、シナジーが認められない、またシナジー獲得のための具体的提案がないということであった。
そして5月2日よりミネベアミツミが公開買付けを開始することを5月1日付で公表した
5。買付価格は当初より引き上げてヤゲオより高い1株当たり5500円とした。買付期間は5月2日より6月2日まで(20営業日)とされた。買付予定の株式の全体に対する割合は最低で50.01%とし、上限は設けない。また、公開買付けが成立した場合には、一般株主のスクイーズアウトを行い、完全子会社化をする予定である。ミネベアミツミの公開買付けに対して、5月1日付けで芝浦電子は賛同し、株主に対しても公開買付けに応ずるよう推奨を行った
6。
その後、ヤゲオは5月9日から公開買付手続きを開始した(6月19日まで(30営業日))が 、その際、買付価格を1株当たり5400円から6200円に引き上げた
7。
このように芝浦電子がその株主に応募を推奨しているミネベアミツミの公開買付けが1株当たり5500円なのに対して、推奨しないヤゲオは1株当たり6200円という事態が生じた。このことと、ヤゲオが外為法上の承認
8を得られるかどうか不透明であるという状況を踏まえ、5月21日付けで芝浦電子はヤゲオの公開買付けそのものに対する意見を留保すると同時に、ミネベアミツミの公開買付けには会社として賛同するものの、株主が応募することの推奨を「中立」に変更した
9。
その後、ミネベアミツミは以下の通り公開買付期間を延長した
10。
ア)5月22日付で6月4日まで延長(合計22営業日)
イ)6月4日付けで6月19日まで延長(合計33営業日)
ウ)芝浦電子が有価証券報告書を提出したため、6月17日付で7月1日まで延長(合計43営業日)。
エ)ミネベアミツミが有価証券報告書を提出したため6月27日付で7月15日まで延長(合計52営業日)。
オ)7月16日付で7月28日まで延長(合計59営業日)
カ)買収期間末日をヤゲオと揃えるため7月28日付で8月1日まで延長(合計63営業日)
キ)8月1日付で株主との応募契約を変更したことに伴い8月18日まで延長(合計73営業日)
ク)8月18日に買付価格を6200円に引き上げることに伴い、期間を8月28日まで延長(合計81営業日)
同様にヤゲオも公開買付期間を以下の通り延長した
11。
i)芝浦電子が有価証券報告書を提出したため、6月17日付で7月1日まで延長(合計38営業日)
ii)台湾規制当局による買付け許可を得たため、6月25日付で7月9日まで延長(合計44営業日)
iii)外為法上の待機期間の延長通知を受け、7月1日付で7月15日まで延長(合計48営業日)
iv)外為法上の審査状況を踏まえ、7月15日付で8月1日まで延長(合計60営業日)
v)外為法上の待機期間の延長通知を受け、8月1日付で8月18日まで延長(合計70営業日)
vi)ミネベアミツミの条件変更に伴い買収期間末日を揃えるため8月18日付で8月28日に延長(合計78営業日)
公開買付期間は原則として20営業日から60営業日の間で公開買付者の選択により決定される(法27条の2第2項、令8条1項)。ただし、以下の場合は延長が可能もしくは延長しなければならない。
(1) 公開買付開始日より60営業日以内であれば公開買付者は任意に期間を延長できる(法27条の6第1項3号
12の反対解釈)。
(2) 当初届け出た公開買付届出書を修正する訂正届出書を提出した場合、その提出から10営業日を経過した日まで公開買付期間を延長しなければならない(法27条の8第8項、令13条2項2号イ)。
(3) 同時に公開買付けを行っている他者があるときには、他者の公開買付期間の末日まで期間を延長できる(令13条の2項2号ロ)。
これを具体的に見ていくと、(1)の60営業日以内で任意に延長したとみられるのが、ミネベアミツミのア)、イ)およびオ)である。また、(2)自社が訂正届出書を提出したことによる延長であるのが、ミネベアミツミのウ)、エ)、キ)およびク)、ならびにヤゲオのi)~v)である。なお、訂正届出書提出日から10営業日を確保すればよいので、公開買付期間が単純に10営業日増えるわけではない。
そしてミネベアミツミのカ)はヤゲオの公開買付けが8月1日までであることを踏まえ、同日まで延長したものである。ヤゲオのv)もミネベアミツミの公開買付けの末日まで延期したものである。長すぎる買付期間の設定は株主の地位を長期間不安定にする
13もので望ましくないが、今回の公開買付けは法に則ったものであり、やむを得ないであろう。
なお、公開買付けの期間中、買付価格の引き上げは禁止されていない(法27条の6第1項1号
14の反対解釈)。
芝浦電子はミネベアミツミの買付価格引き上げに際しても、株主に対する推奨の見解(ヤゲオにつき意見留保、ミネベアミツミにつき中立)を変えていない
15。少なくとも経済的には株主はどちらに応募しても損得はない。8月28日に決着するかどうか、引き続き注視したい。
(追記)
本稿執筆後、ヤゲオは買付価格を8月21日付で1株当たり6635円に引き上げた。つづいて8月23日付けで7130円に引き上げ、買付期間を9月8日まで延長した
16。他方、ミネベアミツミは買付価格の引き上げおよび公開買付期間の延長はないと公表している
17。