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日米欧の産業別の経済成長

2025年08月20日

(高山 武士) 欧州経済

製造業

米国の製造業の生産性上昇率低下をより細かい業種で見ると、米国の製造業をけん引していたのは、2010年以前には特にコンピュータ・電子製品産業(Computer and electronic products)であった。リーマンショック以前は、コンピュータ・電子製品産業の生産性上昇率が極めて高かったものの、2011年以降は押し上げ寄与が著しく低下していることが分かる(図表10、名目GDP成長全体への寄与で表示)。
なお、日本でも製造業のうち電子・デバイス産業や情報・通信機器産業などはリーマンショック前に高い生産性上昇率を記録していた(図表11・12)。このうち情報・通信機器産業は生産性上昇率の低下が進んでいるが電子部品・デバイスは高めの生産性を維持できており、製造業全体でも米国ほどの生産性の落ち込みには至っていない。なお、ボーモルの例を参考にすれば、製造業のうち米国のコンピュータ・電子製品産業、日本の電子・デバイスや情報・通信産業は生産性上昇産業の典型的な成長産業だったと言えるが、米国のコンピュータ・電子製品産業や日本の情報・通信産業は足もとでは成長をけん引する力はかなり弱っている8
 
8 ユーロ圏ではコンピュータ・電子製品(Manufacture of computer, electronic and optical products)が生産性上昇率の高い業種として該当するが、2014以降のデータが非公表(confidential)となっている。

サービス業

サービス業

また、米国ではサービス業の生産性上昇率が一貫して日欧のそれを上回っている。
その理由として、1つはコロナ禍におけるサービス業の生産性の違いが挙げられるだろう(図表13・14・15)。コロナ禍期間(2020年)は外出自粛・制限などによって対面型サービス産業の生産量が急激に落ち込んだ。この期間、米国では労働力を大きく減らし、労働生産性の落ち込みを限定にとどめた。日欧は労働力の減少をむしろ抑制したため、生産性上昇率が大きく低下した。
また他の大きな理由として、米国はサービス産業の中でも情報関連業(Information)など、高い生産性を維持する産業が存在していることが挙げられる(図表17)。この業種は労働力や価格低下が見られる点においても、成長産業としての役割を担っている。
産業分類や測定方法が異なるので直接の比較は出来ない9が、他地域の状況も確認すると、ユーロ圏の情報通信業(Information and communication)や日本の情報通信業について、ユーロ圏の情報通信産業は米国と同様にプラスの生産性は維持しているものの、生産性の高さは米国と比較するとやや劣っている(図表18)。日本の情報通信産業は近年の生産性成長率はマイナス圏にある(図表16)。
最後に、冒頭でも見た通りであるが、「エッセンシャル産業」の代表例である保健衛生・社会事業についても日米欧の状況を確認しておく(図表19・20・21)。
このうちユーロ圏の保健衛生・社会事業(Human health and social work activities)は典型的な生産性上昇率の低い労働集約的な産業の動きをしている。つまり、一貫して生産性はあまり上昇しておらず、雇用を吸収し続けてきた様子が見て取れる(図表21)。
一方、米国の医療・社会支援事業(Health care and social assistance)は雇用を吸収しているものの、生産性上昇率はそれほど低くない(ただし、経済全体の生産性上昇には劣っている。前掲図表2も参照)。米国ではサービス業全体での生産性上昇率が日欧と比較して高いことを確認したが、サービス業に成長産業を有していることに加えて、こうした労働集約的な産業においても生産性の上昇が見られることが、その一因と言えるだろう。日本は雇用吸収という点では米欧と共通しており、生産性に関しては過去はマイナス成長が目立っていたが、近年はプラス成長も散見されるようになっている(図表19)。
 
9 特に価格への「質の向上」の反映手法により、違いが生じ得る。例えば、質の向上が発生している財・サービスについて質の向上を織り込む場合は織り込まない場合と比較して生産性が上振れ、価格は下振れる。

補足

補足

本稿における産業別の名目GDP成長率の(1)生産性、(2)労働力、(3)価格への分解は以下の通り。
この両辺を対数にして基準年との差を取ると
となる。なお、各要素の基準年からの変化が小さい場合は
と近似できるため、対数差と伸び率を同一視している(年率換算においては、対数差を年数で除している)。また、名目GDP成長率全体への産業別寄与度の算出においては、各産業別名目GDPの対数差に名目GDPウエイト(基準年と最新年の和半)を乗じることで計算している。

また、名目GDPシェアの変化(差分)の分解は以下の通り(LMDI法)。
この第3式を展開し、第1項から順に生産性要因、労働力要因、価格要因としている。また、シェアの変化を年数で除したものを年換算としている。

経済研究部   主任研究員

高山 武士(たかやま たけし)

研究領域:経済

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴

【職歴】
 2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
 2009年 日本経済研究センターへ派遣
 2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
 2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
 2014年 同、米国経済担当
 2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
 2020年 ニッセイ基礎研究所
 2023年より現職

 ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
  アドバイザー(2024年4月~)

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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