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米利下げ再開が視野に、円高進行の目途は?~マーケット・カルテ9月号

2025年08月22日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

月初、1ドル150円台半ばでスタートしたドル円は、米雇用統計の大幅な下振れに伴うFRBによる9月利下げ観測の台頭を受けて、5日に146円台まで下落した。その後は米利下げ再開の時期を見定めようとする様子見地合いが続くなか、米インフレ観測によるドル買いや、株高に伴うリスク選好的な円売りなどによりやや円安に振れる場面があった一方、トランプ政権によるFRBへの相次ぐ利下げ圧力などでドルが弱含む場面もあり、方向感を欠く展開に。足元では148円台半ばにある。

雇用統計の大幅な下振れを受けて、FRBが主張してきた「米雇用情勢は堅調」との前提に疑問符が付いている。このため、FRBは9月にも利下げを再開し、以降段階的に利下げを継続する可能性が高いだろう。一方、日銀はしばらく様子見姿勢を続けると見込まれるが、見据えている先が利上げであることは明確だ。日米の金融政策の方向性の違いが再び顕在化することで、秋にかけて円高ドル安が進むと予想している。ただし、国内では、政治情勢が極めて流動的となっており、今後の財政拡張への思惑が円高の抑制に作用しそうだ。さらに、FRBの段階的な利下げについての市場での織り込みが既にかなり進んでいることも踏まえると、円が急伸する展開は考えづらい。3か月後の水準は144円前後と見込んでいる。

なお、仮に国内で財政拡張に積極的で利上げに消極的な政権が発足する場合には当該シナリオは崩れる。その際のドル円は、一旦1ドル150円を大きく突破する可能性が高い。

月初1.5%台半ばでスタートした長期金利は、米雇用統計の下振れやトランプ政権によるFRBへの利下げ圧力を受けて、5日には1.4%台後半に低下した。一方、中旬以降は日本のGDP上振れに伴って日銀利上げ観測が高まったことや、拡張的な財政政策への警戒が燻るなかで入札・日銀オペで国債需給の緩みが示されたことなどを受けて上昇し、足元は1.6%を若干上回る水準に達している。

日本国債を積極的に買う材料は乏しく、今後も拡張的な財政政策や日銀の利上げに対する思惑を背景に、長期金利の上昇圧力が燻るだろう。3か月後の水準は1.6%台後半と予想している。

 
(執筆時点:2025/8/22)

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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