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貸出・マネタリー統計(25年7月)~銀行貸出が連月で急増、定期預金も増勢を拡大中

2025年08月12日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

1.貸出動向:銀行貸出が連月で急増、残高は2カ月で10兆円増に

(貸出残高)                                                                  
8月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、7月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.52%と前月(同2.96%)から大幅に上昇した(図表1)。銀行貸出は2カ月連続で急進しており、5月対比で前年比伸び率が+0.97%pt、残高が9.7兆円増となっている。

業態別では、都銀等の伸びが前年比3.17%(前月は2.09%)と引き続き急伸した。都銀の伸びはもともと大口貸出の実行・返済によって振れやすい傾向があるが、伸び率は5月以降の2カ月で+1.92%pt、残高は6.8兆円増とそれぞれ急拡大している。大手企業によるM&Aに絡む大口融資が押し上げた可能性が高い。また、地銀(第2地銀を含む)の伸びも前年比3.82%(前月は3.70%)と着実に上昇している(図表2)。

銀行貸出全体としては、円高による外貨建て貸出の目減りが重石となる一方、各種コスト増に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが追い風となり、速めのペースでの増加基調が続いている。
(貸出金利)
6月の新規短期貸出金利は0.916%と前月(0.783%)から上昇し、3カ月ぶりの上昇となった(図表5)。一方、当統計は月々の振れが大きいため移動平均で均してトレンドを見ると、昨年秋に始まった貸出金利の上昇基調に一服感がみられる。ただし、新規短期貸出金利と無担保コールレートのスプレッドはマイナス金利解除前よりもやや縮小した状態にあるため、今後も引き上げ圧力が続く可能性がある。
 
6月の新規長期貸出金利は1.359%と前月(1.357%)からほぼ横ばいとなった(図表6)。変動を均した移動平均で見ると、緩やかな金利上昇トレンドが維持されている。固定金利貸出において、主な基準となる10年国債などの利回りが上昇基調にあることが貸出金利の押し上げ圧力になっていると考えられる。7月以降、10年国債利回りは上振れしていることから、新規長期貸出金利への波及が注目される。

2.マネタリーベース:新紙幣発行効果の剥落も押し下げ要因に

8月4日に発表された7月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲3.9%と前月(同▲3.5%)からマイナス幅が拡大した。前年割れは11カ月連続となる(図表7)。

マイナス幅拡大の主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金のマイナス幅拡大(前月▲3.9%→当月▲4.3%)である。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始して減額幅を徐々に拡大していることが、引き続き、日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表8)。また、気候変動対応オペの貸出鈍化や国債補完供給による資金の吸収も押し下げ要因になった。

さらに、日銀券発行高の伸び率が前年比▲2.4%(前月は▲1.7%)とややマイナス幅を大きく拡大したこともマネタリーベースの伸び率押し下げ要因となった。比較対象となる昨年7月に新紙幣発行に伴う紙幣の引き出しによってマイナス幅が縮小していたことの反動が出た。
 
なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、7月のマネタリーベースは前月比1.5兆円減と2カ月連続のマイナスとなった(図表9)。

日銀は6月の金融政策決定会合において長期国債買入れの減額を再来年3月にかけて継続することを決定した(図表10)。今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。

3.マネーストック:定期預金の伸びが順調に拡大

8月12日に発表された7月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比1.01%(前月は0.85%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.58%(前月は0.39%)と、ともに上昇した(図表11)。伸び率の上昇はともに3カ月連続で貸出の伸び拡大が背景にあるとみられるが、伸び率自体は依然低迷している。財政赤字の縮小や貿易赤字の常態化、リスク性資産等への資金シフトが通貨量の抑制に働いているとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月▲0.1%→当月▲0.6%)の伸びがマイナス幅を拡大し、全体の伸び率を抑制した(図表12)。

一方、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比3.8%(前月は同2.2%)と順調にプラス幅を拡大し、M3全体の伸び率を支えている。判明している6月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比10.7%(前月は10.3%)と二桁の伸びを続けているほか(図表13)、個人の伸びも前年比▲0.6%(前月は▲1.1%)と順調にマイナス幅を縮小し、プラス化が視野に入ってきた。日銀による金融政策正常化の進捗を受けて、多くの銀行が預金金利の段階的な引き上げに動いた結果(図表14)、定期預金金利の水準が上がったうえ、従来はほぼゼロであった普通預金との金利差も広がったことで、企業や一部家計において、普通預金から定期預金へ資金をシフトする動きが広がっていると見られる。

なお、現金通貨(前月▲2.1%→当月▲1.8%)の伸び率もマイナス幅をやや縮小している。
広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.63%(前月は1.47%)とやや上昇した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがやや上昇し、投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月5.4%→当月8.9%)や外債(前月0.0%→当月1.6%)の伸びもプラス幅を拡大した一方、規模の大きい金銭の信託(前月2.9%→当月2.7%)、国債(前月29.9%→当月22.4%)の伸びが低下したことが全体の伸びを抑制した。

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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