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「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(3)-「稼ぐ力」「GX」強化と若年・女性参加を促す「ウェルビーイング」

2025年08月19日

(小口 裕) 消費者行動

4――「未来都市」の足跡から読み解く地方創生1.0――計画と現実のギャップ

1|地方創生2.0基本構想で示された地方創生1.0の政策的限界に対する振り返り
地方創生2.0の基本構想の出発点には、地方創生1.0の政策的限界に対する反省が示されており、基本構想では、特に以下の4点が課題としてあげられている。
 
  • 人口減少の過小評価(社会減・自然減への表層的対応)
  • 若者・女性の流出要因への対応不足
  • 国と地方の役割・関係機関連携の不明確さ
  • 地域の多様なステークホルダーとの協働不足
2|課題トップの「人口減少」――今後は、都市と地方の「関わりしろ」の創出や拠点化へ
SDGs未来都市計画は、全国の自治体に「人口減少」が最大の課題であるとの認識を波及させる一翼となった。実際、全体の7割にあたる146件の計画に課題として含まれており、社会的コンセンサスとしての広がりがデータからも裏付けられる。

しかし、計画内容を見ていくと、当初は多くが「インバウンド拡大」や「交流人口の増加」に活路を求めた構図が見えてきた。言い換えれば、縮退に備えた都市設計ではなく、かつての賑わいの再現に軸足が置かれていた様にも見える。

しかし、近年は二拠点居住や副業・兼業といった都市と地方の「関わりしろ」の創出や拠点化も進められており、地方創生2.0における中核的で、かつ実践的な課題とも言える。
3|「若者・女性の流出要因」対策は数少ない/官民連携は「協定・参画」から、実ある「協働」へ
若者・女性の流出という課題に対しても、多くの計画で副業・ワーケーションを通じた関係人口の創出が試みられたが、ジェンダー視点での施策構築や意思決定への参画に関する取り組みは数少なく、地方創生2.0ではアンコンシャス・バイアス対策など実践的な取り組みの広がりが求められる。

制度設計面では、国と自治体は官民連携プラットフォームを軸に一定の情報共有を進められた点は大きな成果である。今後は「協定締結」や「事業参画表明」といった線を超えてステークホルダーの協働に広げていくことが課題と思われる。

5――「点」から「面」へ

5――「点」から「面」へ SDGs未来都市の意義と地方創生2.0への課題

1|社会実装モデルとしてのSDGs未来都市――今後の地域経済政策の足掛かりに
DGs未来都市計画は、地方創生1.0の実装モデルとして重要な役割を果たしてきた。

特に、自治体が人口減少や担い手不足といった特有の課題をSDGsの枠組みで可視化して、全国にそれらを共有する基盤を提供した意義は大きいと思われる。またKPI指標による計画進捗管理は、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の実践的取り組みの先駆けと言える側面もあるだろう。

また、未来都市の申請要件に「産官学民金労言士等の多様なステークホルダーによる協働体制の構築や事業推進」や「マルチステークホルダー会議の設置・開催」と明記され、具体的な体制や会議体の設置状況を記載・説明が求められる仕組みが設けられたことで、単なる「関係者からの意見聴取」止まりではなく、企業・大学・金融機関を巻き込んだプロジェクトが実現可能になった。これらは単なる社会実験にとどまることなく、今後の地域経済政策の足掛かりとなっていくと期待される。
2|地方創生2.0の課題は、1.0からの「稼ぐ力」「GX」「DX」、そして「幸福度・ウェルビーイング」へ
一方で、若者や女性の意思決定への参画指標や幸福度・ウェルビーイングの測定といった「共感を軸とした指標設計」は、依然として発展途上にあると思われる。SDGs未来都市計画のKPI指標における「主観的な指標」のシェアは、まだまだ少数にとどまる。多様性と包摂を掲げつつも、これらをKPIに落とし込むことは引き続き今後の課題であると言える。

今後は、SDGs未来都市で得られた知見を「点」から「面」へと展開し、特に「稼ぐ力」「GX」「DX」といった相対的に弱かった領域を強化することが1つの鍵となると思われる。言い換えれば、スタートアップ支援、人口集約型の生活圏再設計、副業・関係人口を通じた新たな担い手戦略、AI・デジタルを活用した地域サービスの革新など、各地で芽吹き始めたプロジェクトを地域経済の再構築へと結びつける挑戦が、地方創生2.0の真価を問うことになる、とも言えるのではないだろうか。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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