NEW

「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(3)-「稼ぐ力」「GX」強化と若年・女性参加を促す「ウェルビーイング」

2025年08月19日

(小口 裕) 消費者行動

1――はじめに――SDGs未来都市計画から見えてくる地方創生2.0の鍵

本稿では、SDGs未来都市計画の年度別・地域別動向を手がかりに、その実態と地方創生2.0への接続について分析する。これまでの分析では、地方創生1.0の象徴的施策である「SDGs未来都市」を通じて、都市が直面する課題と、対応策の多様化を明らかにしてきた。地方創生2.0では、こうした政策的限界を反省点として位置付け、より重層的かつ柔軟な連携と対応のあり方が模索されている。

今回は、地方別・年度別に自治体が抱える課題の分布や変遷に着目し、地方創生の構造的な課題について掘り下げる。先に結論を言えば、観光や雇用など従来型アプローチだけでは十分に対応しきれない、人口減少や若者・女性の流出などの構造的課題が各地で顕在化している点が明らかになった。

今後は、「稼ぐ力」「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といった、地方創生1.0後半戦で注力された領域のさらなる強化、若者や女性参画を念頭においた「ウェルビーイング」等の価値指標の活用が社会実装の鍵となると示唆される。

2――浮かび上がる「都市」と「地方」の差

2――浮かび上がる「都市」と「地方」の差――市区町村別に見る未来都市の輪郭

1|SDGs未来都市の課題分析──市は「全方位」、町・村は「生活基盤の再構築」、政令市は「GX」「DX」
前回と同様に、各自治体の課題(テキスト)や取り組みの内容(テキスト)を解析1した結果から、SDGs未来都市計画のそれぞれの傾向を分析していく。まず、SDGs未来都市選定都市を市区町村別に分析すると、地域の規模や機能に応じて課題の優先順位や政策の構えに違いが見られる(数表1)。
 
1 内閣府「SDGs未来都市計画」の選定自治体(2018~2024 年度、206 件)計画をニッセイ基礎研究所で、KH Coderを用いてテキスト解析(形態素解析)を行い、課題カテゴリーを分析者が付与して、それぞれの提案を最多一致カテゴリーに割り付けた。地方区分は旧総務省地域メッシュ(8地方区分):を適用。市区町村種別は、自治体名末尾の表記で4類型:政令・中核市(「市」で人口20万超)、中小市(その他の「市」)、区(東京23 区)、町村で分類している。1件の計画が複数カテゴリーに該当すると、それぞれのカテゴリーで 1件ずつカウントしており、キーワード例は課題として最も頻出した語形を列挙。語尾揺れを正規化し、名詞・複合語を中心に抽出している
2|計画選定都市に「市」が存在感──人口、雇用、交通・医療など生活インフラなど全方位に課題
一般市は多くの課題を有しており、特に「人口減少」「GX(グリーントランスフォーメーション)」「担い手」分野が含まれる計画の比率が高い。

関東・近畿・中部地方は自治体数としても市が多いことから、一般市の選定が多くなる傾向にはあるものの、域内人口の維持、雇用創出、交通・医療など生活インフラの維持といった複合的な課題が絡み合い、全方位の政策対応が求められているとも言えるだろう。

また、一般市が、多面的な地域課題を一手に担う「中核的プレーヤー」としての役割を果たしているケースもある。近年では、一般市を中心に周辺町村などの複数自治体による「広域連携型」の未来都市申請も見られる。たとえば、2024年度には岐阜県中津川市を中心に周辺7町村との連携計画が新たに選定されている。小規模自治体では特に申請業務の事務負担が大きく、申請件数や多様性の両面で依然として課題が残っていたが、今般、広域連携の仕組みや支援体制・制度が拡充されている。
3|町・村は「生活基盤の再構築」、政令市は都市スケール優位性を活かした「GX」「DX」を推進
一般的な町・村の課題に目を移すと、「農林水産」「防災」分野を含む計画の比率が相対的に大きい。特に山間地域では、自然災害や医療アクセスといった生存インフラの確保が重視され、先端技術導入よりも生活基盤の再構築が優先される傾向は否めない。

政令市は選定件数こそ限られるが、計画内容を見ると「GX」や「DX」に特化した戦略が目立つ。都市スケールの優位性を活かし、脱炭素プラットフォームやスーパーシティ構想と連動した選定事例が多く、大学や研究機関との連携によるスマート化の推進を含む取り組みも見られる。

また、特別区に目を移すと、福祉や子育てなど「生活基盤」の機能強化や、「財政効率」向上を通じた都市経営のさらなる進化を目指す取り組みも見られる。

3――地方の個性が映す「未来都市」の進化

3――地方の個性が映す「未来都市」の進化――2018年から過去7年間の軌跡

1|年度別課題構成比の推移──GXや産業振興、担い手不足支援など経済的側面へシフト
次にSDGs未来都市計画の年度ごとの推移を俯瞰する。SDGs未来都市は2018年度から2024年度までに累計206都市が選定されており、経済・社会・環境の三側面での新たな価値創出を目指す都市・地域が全国に広がっている。

「人口減少」や「GX(グリーントランスフォーメーション)」を「課題」として含む計画は、2018年から2024年まで安定的に高水準を維持しており、変動の少ない基盤テーマ(課題)として定着していることが、選定都市の計画内容や選定理由からも読み取れる(数表2)。
一方、「農林水産」「防災」はここ数年やや減少傾向にあり、政策誘導の焦点がGXや産業振興、担い手不足への対応、スタートアップ支援など経済的側面にシフトしつつある兆しが見られる。これは、初期には環境モデル都市や環境未来都市2の流れを汲む自治体が多かったことからと思われる。
 
2 環境モデル都市とは、低炭素社会の実現に向けて高い目標を掲げ、温室効果ガスの大幅削減など先駆的な取り組みにチャレンジする都市として、政府が2008年から選定したもの。2011年より、環境モデル都市で特に優れた都市や地域を「環境未来都市」として選定した。
2|経済・社会・環境の三側面──都市部は複合的な計画、北海道・四国は「GX」「観光」に注力
地方別に見ると、中部(北陸)地方の選定数が多く、財政効率やスタートアップを除けば、いずれの課題を含む計画の構成比が多くなっている(数表3)。
この背景には、そもそも自治体数が多いこともあるが、製造業の集積と農林漁村の混在という地理的・産業的特性があり、多面的な課題構成を生み出している可能性があると思われる。

関東地方では、「GX」「人口減少」「生活基盤」「防災」「担い手不足」などの課題を含む複合的な計画が散見される。これらは首都圏の特に都市化の進んだ地域における深刻な課題でもあり、これらを包括的に取り組めるのは、資金や人材の流動性が高い地域ゆえともいえるだろう。

一方、北海道や四国は、選定都市自体が相対的に少ないものの、「GX」「観光」を含む比率が高い傾向がある。これは、再生可能エネルギー資源や自然資産を活用した戦略的な課題設定が進んでいるためであり、特に北海道では観光と人口減少を組み合わせた計画テーマが目立つ。観光による域外収入の確保が、持続可能な地域経営の重要な柱となっている様子が伺える結果である。
3|新しい成長モデルへの変化──「稼ぐ力」「付加価値創出型の経済」と「適応型社会」
このように、SDGs未来都市の選定計画における課題の変遷は、地方創生1.0で見られた個別対応型の施策から、地方創生2.0の趣旨でもある「自立的経済(稼ぐ力・付加価値創出型の経済)」や「適応型社会(人口減少などに柔軟に対応する社会)」への軌跡にも見える。

言い換えれば、地域ごとの特性や資源を最大限に活かしながら、経済成長と社会的価値創出を両立させるような新たな成長モデルへの進化、と言うこともできると思われる。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)