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貿易統計25年6月-トランプ関税下でも米国向け輸出数量は横ばい圏で踏みとどまり、4-6月期の外需寄与度はプラスに

2025年07月17日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.輸出入ともに前年比でほぼ横ばい

財務省が7月17日に公表した貿易統計によると、25年6月の貿易収支は1,531億円の黒字となったが、事前の市場予想(QUICK集計:3,566億円の黒字、当社予想は2,529億円の黒字)を下回った。輸出が前年比▲0.5%(5月:同▲1.7%)と2ヵ月連続で減少する一方、輸入が数量の高い伸びを主因として前年比0.2%(5月:同▲7.7%)と小幅ながら増加に転じたため、貿易収支は前年に比べ▲683億円の悪化となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比2.5%(5月:同1.8%)、輸出価格が前年比▲3.0%(6月:同▲3.5%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比13.1%(5月:同1.7%)、輸入価格が前年比▲11.3%(5月:同▲9.2%)であった。
季節調整済の貿易収支は▲2,355億円と4ヵ月連続の赤字となったが、5月の▲2,916億円から赤字幅が若干縮小した。輸出が前月比▲0.4%の減少、輸入が同▲1.0%の減少となった。

25年6月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=70.3ドル(当研究所による試算値)と、5月の75.4ドルから低下した。足もとの原油価格(ドバイ)は70ドル程度で推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は7月には70ドル台半ばまで上昇することが見込まれる。

2.米国向け輸出数量は横ばい圏で踏みとどまる

25年6月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲1.6%(5月:同▲1.4%)、EU向けが前年比7.0%(5月:同6.3%)、アジア向けが前年比4.4%(5月:同1.5%)、うち中国向けが前年比▲5.8%(5月:同▲7.8%)となった。
25年4-6月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比0.4%(1-3月期:同2.2%)、EU向けが前期比3.7%(1-3月期:同▲2.0%)、アジア向けが前期比▲0.9%(1-3月期:同0.1%)、うち中国向けが前期比▲3.0%(1-3月期:同0.2%)、全体では前期比0.8%(1-3月期:同▲0.7%)となった。

アジア向けは弱い動きとなったが、EU向けは持ち直し、米国向けは関税が引き上げられた中でも数量ベースでは横ばい圏で踏みとどまった。
米国向けの輸出は数量面では関税引き上げの影響が顕著に表れていない。一方、米国向けの輸出価格指数は3月の前年比8.4%から4月に同▲3.0%とマイナスに転じた後、5月が同▲9.8%、6月が同▲9.9%と低下幅が大きく拡大した。輸出価格低下の一因は円高だが、為替レートの変動以上に輸出価格指数は低下している。

25%の追加関税が課せられた米国向け自動車輸出は4月に前年比▲4.8%と4ヵ月ぶりの減少となった後、5月が同▲24.7%、6月が同▲26.7%と減少幅が大きく拡大した。数量は横ばい圏の動きとなっている(4月:同11.8%→5月:同▲3.9%→6月:同3.4%)が、輸出価格が4月の前年比▲14.8%から5月が同▲21.7%、6月が同▲29.1%と低下幅が拡大したことが輸出金額の大幅減少につながっている。

貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため、為替変動の影響が含まれるが、日本銀行の「企業物価指数」では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。北米向け乗用車の輸出物価指数を契約通貨ベースでみると、3月の前年比▲1.5%から4月が同▲8.1%、5月が同▲18.9%、6月が同▲19.4%とマイナス幅が急拡大している。
関税引き上げによる輸出への影響は、価格競争力低下に伴う数量の減少と数量の落ち込みを緩和するための輸出企業の価格引き下げに分けられる。米国向け自動車輸出は価格の大幅な引き下げによって数量ベースでは横ばい圏にとどまっている。米国に輸出する自動車は日本の海外子会社が米国で販売しているケースが多い。日本の親会社が米国でのシェアを維持するために、関税引き上げ分のコストを負担していることが推察される。

輸出価格の大幅な引き下げによって輸出数量の落ち込みは緩和されているが、その裏では国内の企業収益が大きく悪化していることには注意が必要だ。
実際、日銀短観25年6月調査では、自動車の25年度の経常利益計画が前回調査から▲24.9%の大幅下方修正となり、前年度比▲23.4%の大幅減益計画となった。輸出の伸びが若干下方修正されたことに加え、売上高経常利益率が前回調査から▲3.05ポイントの大幅悪化となったことが経常利益を大きく下押しした。輸出価格の引き下げが利益率の悪化をもたらしている。

3.4-6月期の外需寄与度は前期比0.2%程度のプラスに

6月までの貿易統計と5月までの国際収支統計の結果を踏まえて、25年4-6月期の実質GDPベースの財貨・サービスの輸出入を試算すると、輸出が前期比2%台半ばの増加、輸入が前期比1%台後半の増加となった。この結果、4-6月期の外需寄与度は前期比0.2%(1-3月期:同▲0.8%)と2四半期ぶりのプラスとなることが予想される。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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