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「広島オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年06月18日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

3-2.新規供給見通し
以下では、広島市を代表するオフィスエリアである「紙屋町・八丁堀地区」と「広島駅周辺地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1)「紙屋町・八丁堀地区」
「紙屋町・八丁堀地区」では、明治安田生命保険が、中区袋町4丁目の「明治安田広島ビル」の建替えを行い、地上14階のオフィスビル(延床面積約1.7万m2)を開発し、2025年1月に竣工した10(図表-15 ①)。

また、大同生命保険は、中区紙屋町1丁目で地上14階のオフィスビル「大同生命広島ビル」(延床面積約1.0万m2)を開発し、2025年2月に竣工した11(図表-15 ②)。

NTT西日本アセット・プランニングは、中区国泰寺1丁目で地上10階の複合ビル「APエルテージ国泰寺ビル」(延床面積約1.0万m2)を開発し、2025年12月に竣工予定である。同ビルには、オフィスフロアの一部に広島市役所が入居予定となっている12(図表-15 ③)。

今後も、複数の大規模開発が計画されている。都市再生機構、朝日新聞社、朝日ビルディング、中国電力ネットワークが「基町相生通地区」(敷地面積約7.5千m2)で、オフィスやホテル等が入る「高層棟」、「変電所棟」、「市営駐輪場」を整備する。オフィスやホテル等が入る高層棟は31階建ての複合ビル(延床面積8.6万m2)となり、2027年度に完成予定である13。CBREによれば14、オフィス面積は約6,700坪、基準階面積は約529坪とのことである(図表-15 ④)。
そして、広島YMCAの建物等がある「広島八丁堀3・7地区」(敷地面積1.2ha)では、市街地再開発が予定されており、NTT都市開発が事業協力者に認定された。地上15階、16階、28階建ての3棟の高層ビルを建てる計画で、2030年代半ばの完成を目指すとしている15(図表-15 ⑤)。

また、「中区本通3丁目地区」では、市街地再開発が予定されており、野村不動産が事業協力者に認定された16。同事業は、「本通商店街」を含む約1.2万m2の敷地に、41階建ての北棟、53階建ての南棟のツインタワー(ともに高さ約185m)と、ツインタワーをつなぐ8階建ての低層棟を含む、総延床面積約17万m2の複合ビルを建設し、2033年度の開業を目指すとしている17(図表-15 ⑥)。
 
10 明治安田生命保険相互会社「明治安田広島ビル落成のお知らせ~地域に新たな賑わいと快適なオフィス空間を創出~」(2025年3月27日)
11 大同生命保険株式会社「広島市中区紙屋町に「大同生命広島ビル」が竣工~ 紙屋町・相生通り沿いに高い環境性能をほこる最新オフィスビル ~」(2025年3月5日)
12 株式会社NTT西日本アセット・プランニング「オフィス・商業複合ビルの開発について(広島市中区)」(2024年9月12日)
13 基町相生通地区第一種市街地再開発事業HP 「かみはちはじまる」
14 CBRE「BZ空間」(2025 SUMMER)
15 中国新聞デジタル 「八丁堀再開発の高層ビル3棟、2030年代半ばの完成目指す 広島市中区」(2024年11月20日)
16 本通3丁目地区市街地再開発準備組合・野村不動産株式会社「広島市のランドマークとなる大規模複合再開発事業 『本通3丁目地区市街地再開発準備組合』設立 ~ 事業協力者を野村不動産(株)に決定 ~」(2021年4月15日)
17 建設通信新聞 「環境アセス準備書を縦覧/本通3丁目市街地再開発/広島市」(2024年6月24日)
(2)「広島駅周辺地区」
「広島駅周辺地区」では、大和ハウス工業がJR広島駅北口の東区二葉の里三丁目で10階建ての複合ビル「d_ll HIROSHIMA(ディール広島)」(延床面積約3.2万m2)を開発中で、2025年11月に完成予定である18(図表-16 ①)。また、同施設の東側では、住友不動産が、オフィスやホテル、マンション、温浴施設等が入る34階建ての複合ビルを開発中で、2029年3月に完成予定である19(図表-16 ②)。

また、JR西日本グループが「JR広島駅ビル」の建て替えを行い、商業施設「minamoa(ミナモア)」とホテルが入居する新しい広島駅ビルを開発し、2025年3月に開業した。「minamoa」の来館者数は、開業後20日間で約221万人に達したとのことである20/sup>。同ビルの2階には、広島電鉄の路面電車が直接乗り入れし、2025年8月に開通予定である(図表-16 ③)。
 
18 大和ハウス工業株式会社「二葉の里PROJECT「d_ll HIROSHIMA」(ディール広島)パンフレット」
19 中国新聞デジタル 「イケア売却地 広島駅北口の複合ビル計画、着工2年遅れへ」(2025年3月4日)
20 中国新聞 「[変わる街] 広島駅一帯 ミナモア「順調な滑り出し」 開業1ヵ月 周辺施設に波及効果 紙屋町・八丁堀との競争激化」(2025年4月25日)
(3)広島市の新規供給予定面積
広島市では、数年おきに大規模ビルが新規供給されている。2023年と2024年は大規模ビルの竣工はなく、2025年は「明治安田広島ビル」や「大同生命広島ビル」、「d_ll HIROSHIMA(ディール広島)」等が竣工し、新規供給面積は約1.2万坪と過去10年で最大となる見込みである(図表-17)。翌2026年は大規模ビルの竣工はなく、2027年は「基町相生通地区」で大規模ビルが竣工し、新規供給面積は約0.7万坪となる見通しである。
3-3.賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2029年までの広島のオフィス賃料を予測した。

広島のオフィス市場では、2025年第1四半期に3年ぶりに大規模ビルが竣工したが、立地改善や設備のグレードアップを図るオフィス需要も旺盛で、空室率は前年同月比で低下している。

需要面では、広島県の就業者数は2年連続で増加しており、人手不足感が強く、企業の採用意欲が高まっている。以上のことを勘案すると、広島市のビジネスエリアにおける「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。ただし、広島市の生産年齢人口の減少は今後も続く見通しで、引き続き注視する必要がある。

また、広島では、オフィスを含む職場環境の改善を目的とした設備投資を予定・検討する企業が増えている。コロナ禍を経て、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心にテレワークが普及するなか、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想される。

一方で、トランプ政権の追加関税等の影響によって、自動車産業等の景況感が低迷し、地域の雇用環境等が悪化する懸念もあり、今後の動向を注視したい。

供給面では、「紙屋町・八丁堀地区」や「広島駅周辺地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。ただし、新規供給は数年おきに限定されるため、年間の平均供給面積(2018年~2027年)は地方主要都市のなかで最も小さく、既存ストックに対する比率もほぼ同水準となっている(図表-18)。以上のことを勘案すると、広島の空室率が大きく悪化する懸念は小さいと見込まれる。
空室率が安定的に推移するなか、成約賃料は概ね横ばいで推移する見通しである。2024年の賃料を100とした場合、2025年は「99」、2026年は「101」、2029年は「100」と推移すると予想される(図表-19)。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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