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「広島オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年06月18日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

(2)広島県内企業におけるオフィス環境整備の方針
広島県「県内企業への経営に関するアンケート調査」(調査時点:2024年8月末)によれば、設備投資の予定に関して、6割超の企業5が設備投資を予定・検討していると回答した(図表-10)。業種別にみると、オフィスワーカーの多い「情報通信業」では、7割超の企業が設備投資を予定・検討していると回答した。設備投資の内容としては、「既存設備の改修・定期更新(65%)」が最も多く、次いで「省力化・生産性向上を目的とした設備投資」(42%)が挙げられた。前述の人手不足等を背景に、多くの企業がオフィスを含む職場環境の改善を目的とした設備投資を予定していると考えられる。
また、従業員満足度の向上等を目的とした働き方改革が進展するなかで、企業は多様な働き方を許容しつつある。広島県「令和6年度広島県職場環境実態調査」によれば、広島県内の事業所に「働き方改革に取り組んでいる内容」を尋ねたところ、「時間や場所についての多様な働き方(テレワーク、時差出勤、副業・兼業、短時間勤務など)」との回答が34%を占めた。

総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、広島市におけるテレワーク実施率は19%で、全国平均(19%)と同水準であった。産業別にみると、「情報通信業」(66%)が最も高く、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」(47%)、「金融業、保険業」(42%)の順となっており、オフィスワーカー比率の高い業種ほどテレワークが普及している(図表-11 左図)。また、従業員数の多い企業ほど、テレワークの採用が進んでいるようだ(図表-11 右図)。

広島県では、育児や介護などにより就業時間や勤務地に制約のある人材の活躍を後押しする観点から、テレワークの普及など、働きやすい職場環境の整備に取り組んでいる6。今後は、多様な働き方に即したオフィス利用や拠点配置を検討する企業の増加が予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
 
5 「設備投資の予定あり」との回答が37%、「設備投資を検討中」との回答が28%。
6 広島県「働きやすさの整備(多様な働き方)取組サポートページ」
(3)トランプ関税が及ぼす地域経済への影響
トランプ政権が発表した関税措置により、日本企業の事業環境や地域経済への影響が懸念されている。

広島県の名目輸出金額(2024年・約2.9兆円)の国別内訳を確認すると、米国(約6,500億円・23%)が最大で、全体の約4分の1を占める(図表-12 左図)。また、品目別にみると、自動車(約1.1兆円・38%)が最大で、全体の約4割に達する(図表-12 右図)。米国向けの自動車輸出金額は、輸出総額の約15%7を占めている。
ひろぎんホールディングス「2025年度上期経営者アンケート調査」によれば、トランプ政権の政策が自社のビジネスに与える影響について、「マイナスの影響がある」8との回答は67%に達した。業種別では、「自動車関連」(97%)や「電気機械」(89%)、「鉄鋼・金属」(87%)といった輸出関連産業が上位を占めている(図表-13)。

また、広島県「令和4年度広島県県民経済計算結果」によれば、広島県内の業種別就業者数は、自動車産業をはじめとする「製造業」(約26万人)が最も多い(図表-14)。トランプ政権は2025 年4 月に自動車に対して25%の追加関税を発動し、自動車メーカーの業績は厳しい見通しとなっている9。広島県の雇用環境等が悪化する可能性もあり、今後の動向を注視したい。
 
7 日本銀行広島支店「広島県経済の特徴」(2025年6月5日)
8 「マイナスの影響がある」と「どちらかといえばマイナスの影響がある」との回答の合計。
9 日本経済新聞「車7 社、関税・為替負担重く 今期、3 兆円の減益要因に スバルなど3 社は予想非開示」2025 年5月15 日
追加関税と為替変動の影響で、主要7 社合計で、約3 兆1000 億円の減益要因になる見通し。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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