2025年4月25日、日本航空(JAL)は、ANAホールディングスおよび日本空港ビルと協議の上、3社連名で株式会社エージーピー(AGP)の非公開化を目的とした株主提案を行った。6月26日に行われるAGPの株主総会で付議される予定となっている。付議される議案は3社以外のAGPの少数株主を締め出すこと(スクイーズアウト)を目的とするものである。
本スクイーズアウトの手法としては、「株式併合」が用いられる(会社法180条)。JALのリリース
1によると本件においては123万5,700株を1株とする株式併合を行うことで、3社以外の株主の保有する株式を1株未満である「端株」とする。株式併合は株主総会で議決権を行使した株主の3分の2以上の賛成が必要とされる「特別決議」で行わなければならない(会社法309条2項4号)。この点、JAL(30.47%)、ANA(18.30%)、日本航空ビル(24.50%)の合計(73.26%)が3分の2を超えていることから、決議が成立することが見込まれる。
株主併合によって生ずる端株の処理としては、裁判所の許可を経て、市場価格と算定される価格で売却した代金を端株主に交付することができる(会社法235条2項で準用する会社法234条2項)。そして
株式会社は自社の端株を市場価格と算定される価格で買い取ることができ(会社法235条2項で準用する会社法234条4項)、本スクイーズアウトでも株式併合後、AGPが端株を1株=1550円を基準として買い取るものとされている。この価格は株主提案公表日の前営業日である2025年4月24日のAGP株式の終値1,113円に対して39.26%のプレミアムを加えたもの等の基準に照らして設定されたものである
2。
また、JALのリリースを見ると、本スクイーズアウトの意義として、i)脱炭素への取り組み強化、ii)経営資源の集中、iii)人材不足への対応が挙げられている。
これらについてAGPのリリース
3では、株主提案に反対するとし、以下のように述べている。
ア)提案の目的に合理性がない: 脱炭素のための非公開化という主張には合理性がなく、上場維持のままでも施策は十分可能である。
イ)手続に公正性が欠ける:案内容は公開買付から株式併合へ切り替えられ、その理由も説明されていない。
ウ)提示価格の妥当性がない:1,550円という買収価格は、AGPが起用した第三者算定機関による最小評価1,710円を大きく下回る水準である。
確かに脱炭素の取組に非公開化が本当に必要かと問われれば、躊躇を感じる。また、本スクイーズアウトの特色としては他の案件で行われるような公開買付け(TOB)を前置していない
4ことが挙げられる。TOBが行われる場合においては、対抗TOBがかかるなど価格設定の透明性が高い場合がある。
ところでJALのリリースでは、「(AGPは)全ての株主に対する情報提供の平等性を厳格に徹底するという立場から、当社を含む大株主との個別の対話を控える立場」をとっているとし、AGPは、「当社と少数株主との間の利益相反構造を過度に強調する」あまり、JALとAGPとの間で、「AGPの経営方針や事業戦略等に関する株主としての一般的な対話さえ行うことが困難な状況」となっていると記載している。
他方、AGPのリリースでは、非公開化の提案を社長ではなく、執行役員名義で受け取ったという。そこで照会書を送ったところやはり執行役員名義での回答しかもらえなかったとする。
このように両者のコミュニケーションは円滑には行われてこなかった。ただJALのリリースによると、JAL・ANA・日本空港ビルいずれも取締役と監査役を一名ずつAGPに送り込んでいることがわかる。この様に密接な関係にありながら、なぜ意思疎通の不足が生じたのだろうか。
非公開化で最も影響を受けるのは少数株主である。この点、議決権を有する株主においては、株主総会前に株式併合議案に反対する旨を通知し、かつ株主総会でも同議案に反対したときは、保有株式の全部を公正な価格で買い取ってもらうことができる(会社法182条の4)。1株当たり1550円という価格が納得できない少数株主はこの手続を活用できる。
妥当な株式価格を巡り、訴訟に発展する可能性もあるため、今後の動向に注意が必要である。