増え行く単身世帯と家計消費への影響-世帯構造変化に基づく2050年までの家計消費の推計

2025年06月12日

(久我 尚子) ライフデザイン

2世帯構造変化が与える家計消費額への影響~2025年頃をピークに減少、2050年には現在より1割減
さて、世帯構造が変わることで家計消費に占める各世帯の割合も変わるわけだが、家計消費額全体で見るとどのように推移するのだろうか。下記の手順にて、家計消費額を推計した。

(1) 2024年までは、内閣府「国民経済計算(GDP統計)」の国内家計最終消費支出に対して、図表4で得た世帯類型の割合を乗じて、各世帯の年間消費額を算出する。

(2) 2025年以降は、各世帯について2024年の値を基に世帯数の増減を考慮して推計し、各世帯の年間消費額を算出し、合計値を得る。

その結果、国内家計最終消費支出は2025年頃をピークに減少に転じ、2045年には300兆円を下回り、2050年にはピーク時より約15%減少する。なお、二人以上世帯の消費は現時点をピークに減少傾向を示すと見られるが、単身世帯では2030年頃、60歳以上の高年齢世帯、高年齢の単身世帯では2045年頃まで増加傾向が続く見通しである。

ところで、冒頭で示した通り、人口は2010年頃に、世帯数は世帯のコンパクト化の進行により2030年頃にピークを迎え、その後は減少に転じる。一方で、国内家計最終消費支出のピークは2025年頃と見込まれ、人口や世帯数のピーク時期とはズレが生じている。
この要因を詳しく見るために、国内家計最終消費支出の増減を世帯類型別に寄与度分解したところ、これまでの消費支出の増加には、二人以上の高年齢世帯や単身世帯が主に寄与していたことが分かる(図表8)。しかし、今後は、全体的に減少への寄与が増加への寄与を上回るようになる。特に、40歳代・50歳代の二人以上世帯が消費減少に大きく寄与するほか、30歳代および若年単身世帯も減少要因として顕在化していく見込みである。

つまり、これまでは、高齢夫婦世帯や単身世帯といった世帯人員の少ない世帯が増加することで、消費がかさむ効果が生じていた。これは、世帯人数が少ないほど一人当たりの家賃や食費などの固定的支出への負担感が相対的に高くなり、家計の効率性が低下するためだ。こうした影響が、人口減少による消費の縮小効果を上回った結果、国内家計最終消費支出はこれまで増加傾向を示していたが、2025年以降、世帯当たりの消費額が大きい40~50歳代の家族世帯が減少に転じることで、消費減少効果が拡大し、世帯のコンパクト化による消費押し上げ効果を上回るようになる。さらに2030年以降は、総世帯数そのものが減少に転じるため、国内家計最終消費支出は本格的な減少局面に入っていくと見込まれる。
なお、本稿の推計では、各世帯の消費額は2024年水準で一定とし、世帯数の変化のみを考慮している。そのため、賃上げの波及などにより個人消費の回復が進めば、将来的な推計額は上振れる可能性がある。一方で、世帯当たりの可処分所得は2015年前後を底に足元では増加傾向にあるものの、2020年以降は消費支出が減少している世帯類型も多い。さらに、コロナ禍以前から若年層を中心に消費性向の低下が指摘されていた点2なども踏まえると、将来的な国内家計最終消費支出は、今回の推計値を下回る可能性も否定できない。
 
2 例えば、コロナ禍前は、内閣府「平成29年第5回経済財政諮問会議 資料2-2消費の持続的拡大に向けて」などにおいて、若い世代の消費性向の低下や可処分所得の減少が観測指摘されていた。一方、総務省「家計調査」にて二人以上世帯の世帯主の年齢別の状況を見ると、消費行動の再開などから消費性向は上昇している。

4――おわりに

4――おわりに~2040年の家計消費は単身が3割、シニアが半数、世帯構造変化応じた供給が鍵

本稿で見たように、未婚化や核家族化、高齢化の進行で単身世帯が増加している。単身世帯は2020年では38.0%だが、2030年には4割を超え、2050年には44.3%となる。また、単身世帯は、かつては若年男性が多かったが、現在は60歳以上の高年齢女性や壮年男性が多く、2040年には60歳以上の割合は半数を超える。

家計消費における単身世帯の存在感も増しており、現在は家計消費全体の3割弱だが、2040年頃には3割を超える見通しである。また、高年齢世帯の存在感も増し、二人以上世帯と単身世帯を合わせた60歳以上の消費額の割合は現在では4割未満だが、2050年にはおよそ半数に達する。

さらに、国内家計最終消費支出を世帯類型別に分解して将来推計を行うと、2025年頃をピークに減少に転じ、2050年にはピーク時より約15%減少する見通しである。この要因には、これまでは高齢夫婦世帯や単身世帯などの世帯人員の少ない世帯が増えて消費がかさむ効果で消費全体が増えていたが、今後は人口減少による消費縮小効果が上回ることがあげられる。

日本の消費市場の縮小に歯止めをかけるには、可処分所得は一時期より増加しているものの、消費支出が減少傾向にある現状を踏まえるとともに、今後も増加が見込まれる単身世帯の実態を丁寧に捉え、そうした世帯特有のニーズに対応した商品・サービスを拡充していくことが有効である。

かつては、単身世帯といえば若年層のひとり暮らしというイメージが一般的だったが、現在では高齢女性と壮年男性が半数を占め、今後は高齢者の割合がさらに高まっていく見通しである。したがって、単身世帯の消費市場を考えるにあたっては、多くが高齢者であるという量的な構造を正しく把握することが第一の前提となる。

加えて、単身世帯に共通する消費志向だけでなく、性別や年代といった属性ごとの違いにも十分に留意し、それぞれに適した商品・サービスを展開することが重要である。

生活研究部   上席研究員

久我 尚子(くが なおこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴

プロフィール
【職歴】
 2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
 2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
 2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
 2021年7月より現職

・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

【加入団体等】
 日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
 生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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