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令和の米騒動が起きた背景と農業の現状-米の価格高騰はなぜ起きた?

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.339]

2025年06月06日

(小前田 大介) 成長戦略・地方創生

1―はじめに

近年、いわゆる「令和の米騒動」として注目された米の需給問題は、単なる一過性の問題ではなく、供給力の低下と需要の変化が複合的に重なった深刻な課題である。供給面では、長年続いた減反政策や気候変動、労働力不足などが生産に大きな影響を及ぼしている。一方、食生活の多様化や人口減少により需要は長期的に縮小している。さらに近年は、インバウンドや家庭内需要の回復により、需給バランスは一層複雑化している。また、在庫管理も課題であり、需給変動への迅速な対応が難しい。米需給問題の実態を供給・需要・在庫の3つの視点から整理する。

2―供給力の低下

1971年から約半世紀にわたり実施された減反政策は、水田面積と米の生産量を大きく縮小させた。政策は2018年に終了した。しかし現在も「適正生産量」の提示や転作支援が続いており、実質的な減反が継続している。こうした政策が、現在の供給力低下につながっている[図表1]。
また猛暑や異常気象による品質低下が近年深刻化している。特にコシヒカリのような暑さに弱い品種は打撃を受けやすく、2023年は1等米(等級の数字が小さい程、精米後に残る米の量が多い)の割合が大幅に減少した。

農業従事者の高齢化が進み、後継者不足も深刻である。小規模農家が多い中、経営規模拡大の動きも見られるが、担い手の育成と支援は急務である。

肥料・燃料などのコスト上昇は、小規模農家の経営を直撃している。小規模農家ほど生産コストが割高になり、経営の持続性に深刻な懸念が生じている。

3―需要の変化

食生活の多様化や人口減少により、米の需要は長期的に減少を続けている。主食としての地位は低下しており、需要の構造自体が変化している[図表2]。
しかし2023年はコロナ後の家庭内調理の増加*1や訪日外国人の回復*2により、需要が一時的に増加した。これにより民間在庫*3が急減し、米価が高騰した[図表3]。
 
* 本稿は2025年4月17日拙稿を改変した。
 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=81723?site=nli
*1 総務省 家計調査
*2 農林水産省 米の基本指針(案)に関する主なデータ等
*3 玄米の取扱数量が年間500トン以上の届出事業者の在庫量に10a以上の作付生産者の在庫量推計値を加えたもの

4―在庫管理の重要性

米の安定供給・価格安定を支える在庫は民間と政府の二つの仕組みがある。

2022年以降は民間在庫の在庫量は減少傾向にあり、安定供給への懸念が高まっている。民間在庫の減少が価格の急騰や供給不足を招いたのである。

備蓄米の放出が後手に回った背景には、急激な需給変動への対応遅れと、価格下落を避けようとする慎重な姿勢がある。その結果、需給安定よりも価格維持が優先された。また、制度上の制約や関係機関との調整に時間を要し、機動的な対応が困難な構造も課題である。今回の事態を受け、備蓄米制度の見直しと、需給変動に即応できる運営体制の構築が求められている。

5―最後に

令和の米騒動と呼ばれる需給混乱は、減反政策の影響、気候変動や高齢化、インフレによる供給力低下、食生活の変化と人口減少による需要構造の変化、短期的な需要増による在庫逼迫が複合的に絡み合って生じたものである。今後の安定供給には、生産調整に頼らない持続可能な農業構造の再構築が不可欠であり、需要変動に応じた在庫戦略と迅速な政策判断が求められる。現場の声を反映し、消費者と生産者の信頼をつなぐ調整機能の強化が米政策の鍵となる。
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