「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年05月30日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

3-2.新規供給見通し
名古屋市では、前述の通り、「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」等を活用した大規模開発計画が複数進行中である。以下ではエリア毎にオフィス開発計画を概観する。
(1)「名駅地区」
「名駅地区」では、中村区名駅4丁目で、明治安田生命保険が「明治安田生命名古屋駅前ビル」の建て替えを行い、20階建てのオフィスビル(延床面積約4万m2)を開発中で、2026年8月に竣工予定である10(図表-17 ①)。

また、2025年5月に名古屋鉄道、名鉄都市開発、日本生命保険、近畿日本鉄道、近鉄不動産の5社が、「名古屋駅地区再開発計画」の事業化を正式に決定した11。北街区にオフィス・商業・鉄道駅が入る地上31建ての複合施設を、南街区にオフィス・ホテル・バスターミナルが入る地上29建ての複合施設を開発予定で、延床面積は合計約52万m2に達する計画となっている。その内、オフィスの貸付面積は約20万m2(北街区約15万m2・南街区約5万m2)となる予定である。2027 年度に着工、2033 年度にオフィスビルやホテル、商業施設の一部が竣工、2040年代前半に完成予定である(図表-17 ②)。
 
10 明治安田生命保険相互会社「「明治安田生命名古屋駅前ビル建替計画」新築工事着工のお知らせ~環境に配慮した設備により、持続可能な社会の実現に貢献~」2023年5月24日
11 名古屋鉄道株式会社「名古屋駅地区再開発計画の事業化決定について」2025年5月26日
(2)「栄地区」
「栄地区」では、市有地の「栄広場」と隣接エリアを合わせた地区(錦三丁目25番街区)で、三菱地所、J.フロント都市開発、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社の5社が「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」を活用した地上41階建ての複合ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」(延床面積約11万m2)を開発中で、2026年3月に竣工予定である12。ホテルには、米ヒルトングループの「コンラッド」が入居する。当ビルの高さは約211メートルで、名古屋テレビ塔(約180メートル)を超え、栄地区では最も高いビルとなる(図表-18 ①)。

中区新栄町2丁目では、第一生命保険、鹿島建設、ノリタケカンパニーリミテドの3社が地上 19 階建ての「栄トリッドスクエア」13(延床面積約4万m2)を開発中で、2026年3月に竣工予定である14(図表-18 ②)。

また、中区錦3丁目の「セントラルパークアネックス」および「桜錦ビル」跡地では、三菱地所が地上13階建ての複合ビル(延床面積約2.4万m2)を開発中で、2026年11月に竣工予定である15(図表-18 ③)。
 
12 三菱地所株式会社、J.フロント都市開発株式会社、日本郵政不動産株式会社、明治安田生命保険相互会社、株式会社中日新聞社「「(仮称)錦三丁目 25 番街区計画」の建物名称を「ザ・ランドマーク名古屋栄」に決定~名古屋の新たなシンボルタワーが栄に誕生~」2024年7月24日
13 鹿島建設株式会社HP「栄トリッドスクエア」
14 第一生命保険株式会社、鹿島建設株式会社、株式会社ノリタケカンパニーリミテド「名古屋市中区栄エリアにおけるオフィスビル共同開発プロジェクト始動」2022年11月11日
15 三菱地所株式会社「「セントラルパークアネックス」「桜錦ビル」跡地の開発プロジェクト「(仮称)錦三丁目 5 番街区計画」着工~久屋大通駅直結の高い利便性を有し久屋大通公園に臨む複合ビルが誕生~」2024年10月7日
(3)「伏見・丸の内地区」
「伏見地区」では、中区錦2丁目の「りそな名古屋ビル」跡地で鹿島建設が地上 13 階建ての「名古屋伏見Kフロンティア」(延床面積約2.6万m2)を開発中で、2025年10月に竣工予定である16(図表-19 ①)。
 
16 週刊不動産経営「鹿島建設 「鹿島 中規模オフィスビル開発におけるCO2排出量35%削減を達成 「名古屋伏見Kフロンティア」で」2024年11月11日
(4)名古屋市の新規供給予定面積
2024年は「名古屋シミズ富国生命ビル」や「第2名古屋三交ビル」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約1.6万坪となった(図表-20)。

2025年の新規供給量は、前年比▲66%減少の約0.5万坪となる見通しだが、翌2026年は「ザ・ランドマーク名古屋栄」や「栄トリッドスクエア」等の大規模開発が竣工予定で、新規供給量は約3.3万坪となり11年ぶりに3万坪を上回る見通しである。
3-3.賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2029年までの名古屋のオフィス賃料を予測した(図表-21)。

需要面に関して、愛知県の就業者数は情報通信業等を中心に増加している。また、東海地方の「企業の経営環境」は一進一退の動きが続いているものの、「雇用環境」については人手不足感が強く、企業の採用意欲が高まっている。以上のことを鑑みると、名古屋市の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。一方、トランプ政権の追加関税等に伴い、自動車産業の景況感が後退し、東海地方の雇用環境等が急速に悪化する懸念もあり、今後の動向を注視したい。

また、名古屋でも、フリーアドレスを導入し、会議室やリモート会議用ブースを充実させる等、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態を採用する企業が増えている。新たな路面公共交通システム等の導入が予定されており、都市機能の強化・向上が図られることで、オフィス需要にもプラスの効果が期待される。以上の状況を踏まえると、名古屋のオフィス需要は概ね底堅く推移する見通しである。

供給面では、2026年に栄エリア周辺等で大規模ビルが竣工するが、2027年以降、新規供給は落ち着く見通しである。

以上を踏まえると、名古屋市の需給バランスが大きく崩れる可能性は低く、オフィス成約賃料は安定した需給環境のもと、底堅く推移することが見込まれる。2024年の賃料を100とした場合、2025年は102、2026年は101、2029年は105となる見通しである。

金融研究部   上席研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所
 2025年7月より現職

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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